江戸の同心が過去の事件を再調査、武器密造の真相に迫る
惣十郎は、一件の事件を担当した同心が自ら調べ直すべきではないかと疑問を抱いた瞬間、ある記憶が鮮明に蘇った。それは、武器を密造していた者を捕まえたと、詰所で誇らしげに語っていた古参の廻方、河本陸介の姿である。その事件が、今まさに再調査の対象となっていることに、惣十郎は深い関心を寄せた。
古参の功績に潜む謎
河本陸介は、惣十郎が定町廻り同心に任ぜられた当時、最も歴の長い人物の一人であった。しかし、彼は出来物とは言えず、手柄を立てることも後進の指導もほとんどせず、詰所で暇を潰していることが多かった。そんな河本が、「武器密造者を挙げ、公儀への謀反を食い止めた」と吹聴していたことが、惣十郎の記憶に強く刻まれていた。
河本は四年前、持病の脚気が悪化して致仕し、その後この世を去った。そのため、今回の再調査は、惣十郎と崎岡の二人に白羽の矢が立ったのである。志村は、二人に事件の経緯が例繰り方に書面で残されており、罪人が造った道具は雑物蔵に保管されていると説明した。そして、必要であれば当人への聞き取りも手配すると約束した。
再調査の背景と恩義
崎岡がなぜ自分たちにこの任務が与えられたのかと恐る恐る尋ねると、志村は「おぬしは、わしに借りがあるじゃろう」と応じた。これは、重蔵の一件で崎岡の捕違いが志村の差配でお咎めなしとなったことを指している。惣十郎もまた、梨春に検屍を頼み、重蔵の無実を証したことで志村に恩義があった。
この再調査は、単なる事務手続きではなく、過去の事件の真相を明らかにする重要な機会となる。惣十郎と崎岡は、記録と証拠品を仔細に検証し、河本が立てたとされる手柄の実態を探ることになる。江戸の町を舞台に、同心たちの忠誠と疑念が交錯する物語が、新たな展開を迎えようとしている。