奥能登の祭りと共に生きる郷土料理「芋だこ」
石川県の郷土料理といえば、加賀百万石の武家文化を反映した加賀料理が有名ですが、能登半島にはそれとは異なる庶民の味が根付いています。その代表格が「芋だこ」です。能登半島の最先端に位置し、日本海に三方を囲まれた珠洲市ならではの、海の幸を活かした料理です。
「芋だこ」の誕生と特徴
珠洲市で30年以上にわたり郷土料理を研究し、レシピ本『よばれん 華(か)』を執筆した岩坂敦子さん(70)は、芋だこの起源について次のように語ります。「珠洲は昔、食べ物が豊富ではなく、自給自足の生活が当たり前でした。『なんとかおいしいものができないか』と知恵を絞る中で生まれた料理ではないでしょうか」。
芋だこの主な材料は、地元で水揚げされたマダコなどのタコとサトイモです。ジャガイモで代用されることもあります。調理方法は、タコをたっぷりの塩で揉んでヌメリを取り除き、5センチほどの大きさに切ります。サトイモは一口大に切り、昆布、しょうゆ、酒などと一緒に炊き上げます。タコが柔らかくなったら汁を切り、完成です。タコの身はしっとりとしており、噛むほどに旨味が広がります。
芋だこは元々、家庭料理として各家庭で作られていました。能登地方の伝統的な魚醤「いしり」をしょうゆの代わりに使うこともあったそうです。
減少するタコと地震の影響
しかし、2025年までの20年間で石川県内のマダコの水揚げ量が4割以下に減少するなど、地元でタコが捕れにくくなっています。また、調理に手間がかかることから、家庭で作られる機会は減ってきました。市内の飲食店で味わうこともできましたが、2024年元日に発生した能登半島地震で多くの店が休業を余儀なくされました。
それでも、夏から秋にかけて奥能登各地で行われる伝統行事「キリコ祭り」が始まると、芋だこが再び食卓に登場します。各家庭では親戚や知人を招き、特別に用意した料理でもてなす「ヨバレ」という風習があり、その席で芋だこはごっつぉ(ごちそう)の一つとして振る舞われます。近年は仕出しやオードブル形式が主流になりましたが、祭りに欠かせない一品として今も愛されています。
郷土料理がつなぐ絆
岩坂さん自身も地震で被災し、一時は金沢市に避難しました。しかし、能登の自然や旬の食べ物が恋しくなり、2か月ほどで珠洲市に戻りました。「能登の食材を食べ、山や海の空気を吸って四季を感じることで、免疫力も高まる」と岩坂さんは言います。その土地で生きる人の血肉となっているのが、郷土料理なのでしょう。
記者も岩坂さんに特別に作っていただいた芋だこを食べ、タコのあまりの柔らかさに驚きました。5月に珠洲市に赴任したばかりですが、まだまだある郷土料理を味わいながら、地域の魅力を発信していきたいと思います。(荒牧尚志)



