江戸の町方役人・惣十郎が吟味方与力に呼び出される
明和年間の江戸。町方役人である惣十郎は、奉行所の廻方詰所で筆を執っていた。浅草三間町で起きた刃傷沙汰の経緯を書面にしたためている最中であった。
浅草三間町の刃傷沙汰とその顛末
この事件は、男女の痴話喧嘩がもとで発生した。別れ話でもめていたところ、女が刃物を持ち出し、男の腕を浅く切りつけたというものだ。惣十郎は事態をなだめて収め、女を自身番屋に一時預けることにした。
男が行方をくらませば、女も諦めるだろうと考えていたが、翌朝には男の方がよりを戻したいと申し出て、あっさりと落着したのである。「あんなに罵り合ってたのに、ったく男と女ってなぇわけがわからねぇな」と内心で思う惣十郎だった。
同僚・崎岡からの急な呼び出し
そんな中、同僚の崎岡が詰所に現れ、惣十郎を呼び出した。「いや、お前も呼ばれてンだって。四の五の言わずに来いよ」と急かされる惣十郎は、仕方なく腰を上げる。
崎岡は、惣十郎が暮れに与力衆の屋敷へ挨拶回りをしなかったことを指摘し、「きっとお前のそういう不遜な態度を咎められンだよ」と忠告する。しかし、惣十郎は即座に「だったらお前が一緒に呼ばれるはずもねぇだろ」と返した。
吟味方与力・志村兵衛門の呼び出し
崎岡の表情が暗くなった。呼び出しを命じたのは、吟味方与力の志村兵衛門であった。志村は先年、崎岡が亀島町の湯屋で働く重蔵を誤って逮捕した際、釈放に助力してくれた人物だ。
役目が違う吟味方から廻方が呼び出されることは稀である。しかも、惣十郎はともかく、崎岡も最近はお叱りを受けるような捕物をしていない。二人はこの異例の呼び出しに不審を抱きながらも、志村の元へ向かうのであった。
江戸の町方役人たちの日常は、些細な事件の処理から役所内の人間関係まで、複雑に絡み合っている。惣十郎と崎岡は、志村兵衛門からどのような用件を伝えられるのか。役所の垣根を越えた交流が、新たな展開を生み出す可能性も秘めていた。



