樹木希林さんの笑顔に導かれて 89歳男性が語るガンとの闘いと人生の覚悟
「樹木希林さんは、私の身体の中はがんだらけなのよと笑って旅立ったのよ」。これは、筆者のカアサンが語った、あの名女優の最期の言葉である。その言葉を聞いた時、筆者は「フーン、負けてはいないな」と、自らもひらきなおったという。このエッセーは、奈良市在住の今西道男さん(89)が、7年にわたる病との闘いと、そこから見出した人生観を綴った感動的な記録である。
次々と襲いかかる病魔との闘いの日々
今西さんの闘病生活は、7年前に大腸がんの手術を受けたことから始まった。術後の痛みで眠れない夜、テレビをつけると、沖縄の首里城が炎上する映像が流れていた。その数日後、作家の眉村卓先生の訃報を知る。先生は今西さんの拙文をよく推奨してくださった方で、その知らせに涙腺がゆるんだという。
さらに2年後、今度は腹部に動脈瘤が見つかった。しかし、今西さんは「パンクするならしてみろ」と、そのまま放置することを選んだ。ところが、3年前には胸部にも動脈瘤が発見され、手術のために造影剤を注入した際、今度は膵臓に腫瘍が見つかるという新たな試練が待ち受けていた。
余命宣告と86歳の抵抗
医師からは余命1年と告げられ、「再発したらおしまいよ」と言われながら手術に臨んだ。今西さんはこれを「86歳の抵抗だった」と振り返る。しかし、昨年6月、再発が確認される。覚悟を決めた今西さんは、「溺れる者はわらをもつかむというけれど、俺の指は短くて、そんなものはつかめない」と、人生をあきらめる心境に至った。
生きていることの奇跡と感謝
それから半年が経過したが、不思議なことに「使者」はなかなか訪れない。今西さんは「ストライキをしているのか、それともエンストか」と、ユーモアを交えながら語る。今、彼が毎朝目覚めた時に思うことは、「アーア、俺は今日もまた、生きているんだなあ」という、シンプルな実感である。
この気持ちこそが、今の彼にとって十分な喜びとなっている。樹木希林さんに負けないよう、好物のビールを飲み、笑顔で旅立ちたいという願いを胸に、一日一日を大切に過ごしている。
今西道男さんのエッセーは、病と向き合いながらも、人生の最後まで笑顔を忘れない強さと、生きていることへの深い感謝を教えてくれる。彼の言葉は、読む者に勇気と希望を与えるに違いない。



