スモーキングルーム第141回:ホテルJの変貌と密偵の影に揺れる人々
変化は否応なく訪れた。ホテルJから去っていったのは、従業員だけではなかった。かつての常連客たちも顔を見せなくなり、裕福なJと交流があった華やかな客たちの来訪も次第に減っていったのである。金ボタンは、鳥の巣が働く「ホテルJ」と呼ばれる場所に様子を見に行った。
緊迫する街と優雅なホテル内の対比
道は喚いたり罵ったりする人々で溢れ、警察が抑えようとするも、いつ暴動に発展してもおかしくない緊迫感が漂っていた。そんな中、裕福なJたちは車でホテルに乗りつけては、優雅に茶や酒や会話を楽しんでいた。ホールには生演奏が途絶えず、シャンデリアやグラスが煌めき、上質な煙草と香水の香りが漂っていた。
見覚えのある客もいたが、制服を脱いだ金ボタンには気付かない。金ボタンは何食わぬ顔でホテルの中をうろつき、客の荷物を運んでいた鳥の巣に目配せすると、そのまま裏口から出て外壁にもたれて待った。ワゴンを押す清掃係や業者の人間が出入りしたが、金ボタンが平然としているので誰も気にとめなかった。
鳥の巣との再会と衝撃の警告
やがて、鳥の巣が周りを窺いながらやってきた。「客室係になったのか。ここは謝礼がたくさんもらえそうだな」と金ボタンは口笛を吹いた。鳥の巣は暗い顔で言った。「もう楽観的な者しか残っていない。あとは愛国心がある者や、僕みたいに人脈のない貧乏人だけ」。
金ボタンが「愛国心か」と問うと、鳥の巣は鼻で笑い、「違うな、目を背けているだけだな」と返した。金ボタンが「どういうことだ」と尋ねると、鳥の巣は「裕福なJは外国に逃れた」と告げ、唇を動かさないようにして囁いた。「ここにも密偵がいる」。
金ボタンが瞬きで続きを促すと、鳥の巣は「僕らを監視している者や、僕らの動向や情報を売っている者がいる」と明かした。金ボタンが紙幣を折って渡すと、鳥の巣は目を伏せて受け取り、「貨幣の価値はすぐ変わる。もしも、まとまった額を持っているなら、国外の銀行に預けるか、金とか宝石とかに替えろ。酒や煙草でもいい」と言って背中を向けた。
変わりゆく社会と人々の選択
この会話は、ホテルJの華やかさの裏側に潜む不安と、人々が直面する選択の重さを浮き彫りにしている。街の緊迫感とホテル内の優雅さの対比は、社会の分断を象徴的に描き出している。鳥の巣の警告は、密偵の存在が日常に浸透し、信頼が揺らぐ状況を暗示しており、愛国心や貧困といった要素が複雑に絡み合う人間模様を鮮明に映し出している。



