負け続けた「世界最高」のスケーター・織田夢海、代名詞を捨ててまでつかみたい「夢」
世界最高峰のアクションスポーツの賞金大会「Xゲームズ」の千葉大会が、7月4日と5日に千葉市の幕張メッセで開催される。この大会のスケートボード女子ストリートに、織田夢海(19歳、サンリオ)が出場する。世界トップスケーターの一人である彼女は、自身の「代名詞」とも言えるトリックを捨て、新たな一歩を踏み出そうとしている。
「もう、最年長くらいになっちゃいましたね」
織田は若い。それでも、世代交代が激しい日本のスケートボード女子ストリートシーンにおいて、その言葉は紛れもない事実だ。西矢椛(サンリオ)は13歳で東京五輪金メダルを獲得し、パリ五輪では吉沢恋(ACT SB STORE)が14歳で優勝。2025年から始まったワールドツアーと世界選手権の両方を制し、世界ランキング1位に立つ松本雪聖も14歳である。
西矢と同世代の織田は、キャリアを重ねる中で負け続けてきた。東京五輪では最後の選考対象となった世界選手権で敗れて出場を逃し、パリ五輪では代表選考時に「金メダル候補」と目されながらも、予選シリーズ最終戦で惜しくも及ばず涙をのんだ。しかし、二つの五輪の間、「代表候補」であり続けたことは、常に第一線で戦い続けている証でもある。貴重な10代の全てをスケートボードに捧げ、負け続けてもなお、彼女は言う。「ロサンゼルス五輪は絶対に出場したい」
代名詞を捨てて
織田夢海は間違いなく、世界最高のスケーターの一人だ。2023年には世界選手権を優勝し、2024年にはスケートボード世界最高峰のプロツアー「ストリートリーグ」(SLS)年間王者決定戦で3位に入賞。Xゲームズでの優勝経験もあり、日本選手権は2023年から2025年まで3連覇中だ。
そんな彼女の代名詞は「キックフリップ・フロントサイド・フィーブルグラインド」(板を裏表に1回転させ、板の先端を斜めに突き出しながら後輪車軸で滑るトリック)だった。織田はこのトリックを2022年のSLS米ジャクソンビル大会で決め、女子大会史上最高得点となる9.4点を記録。2023年の世界選手権ではこの大技で初優勝を果たし、2024年のXゲームズ米ベンチュラ大会のベストトリックでも優勝している。
それでも織田は言う。「どんどん点数が出なくなっていて、もう見飽きられているかなと。これからは準決勝とか、ランの低いレールでやるとか、そういうトリックになるのかなと思っています」。世界中のスケーターが「織田夢海といえば」と思い浮かべるこのトリックを、自ら手放そうとしているのだ。「それしかないって思われちゃうのも嫌なので、新しい技にチャレンジしたいと思っている」
新たな挑戦
今、取り組むトリックは「キックフリップ・バックサイド・スミスグラインド」。板を裏表に1回転させて自分の背中側にあるレールに乗り、後輪をつなぐ金属部分のみで滑りつつ、ボードの前部分を下げるトリックだ。「まだ、大会でメイクしたことはない」というこのトリックを、今年7月のXゲームズ千葉大会でも「できたらいいなと思っている」。
「負けたくない」を重ねて
織田にとってXゲームズは「自分を救ってくれた大会」だという。思い出すのは2024年、パリ五輪予選シリーズ後のXゲームズ・ベンチュラ大会。パリ五輪への出場を決めていた選手も多く名を連ねたこの大会で、織田は女子ストリート3位、女子ストリート・ベストトリック優勝という結果を残した。「2度も五輪を逃した時はつらかったけれど、パリの時は(その後の)Xゲームズを目標に持てた。五輪選手もいるなかで結果を残せたのがうれしかった」と振り返る。「Xゲームズはスケボーだけじゃなくて、他のスポーツの試合もある大会。お祭りみたいで楽しい」と笑顔を見せる。
年齢層が低いスケートボードシーンでは、負けが込んだり苦しい状況が続いたりすると、シーンから離れたり、取材に応じなくなったりする選手もいる。それでも、織田はどんな時だって逃げなかった。「最年長くらいになってきた」と笑っても、「今は(松本)雪聖がダントツみたいになっているけれど、自分もそれに負けないくらいもっと頑張りたい」「(吉沢)恋ちゃんと(Xゲームズリーグで)同じチームだけど、試合は個人戦。負けたくない」と言う。
ドラマはこれから
「まだ大会で決めていない」という「キックフリップ・バックサイド・スミスグラインド」が、自分を救ってくれたXゲームズで決まれば、これ以上のドラマはない。何度も打ちのめされて、そのたびに立ち上がってきた。世界で一番「負けたくない」と願ったであろうスケーターにふさわしいシナリオだ。



