柔道サウジ代表ヘッドコーチ各務耕司さん、アジア大会へ「人と人をつなぐ大会に」
柔道サウジ代表コーチ、アジア大会へ「人と人をつなぐ」

11日で開幕まであと100日となった愛知・名古屋アジア大会。平和を掲げるスポーツの祭典を特別な思いで待つ男性がいる。岐阜県瑞浪市出身で、柔道サウジアラビア代表チームのヘッドコーチを務める各務耕司さん(49)だ。2月以降の中東情勢の不安定化の中、指導を続けてきた。教えた選手は今秋、愛知の畳の上に立つ。「政治、宗教、国籍を超えて人と人をつなぐ大会になってほしい」と願う。

異国での指導と家族を守る日々

「これは本当に起きていることなのか」――3月、各務さんはスマートフォンの画面に驚いた。「イランがサウジアラビアの米国大使館を攻撃」とのニュースにくぎ付けになった。米国、イスラエルによるイラン攻撃が始まって数日後のことだ。サウジから一時帰国し、瑞浪市の実家にいた時だった。首都リヤドの自宅と大使館との距離は約20キロ。現地には妻と子ども3人が残っていた。「もし攻撃が拡大したら…」。急いで家族と連絡を取った。

サウジに渡ったのは昨年1月。きっかけは各国のコーチらが参加する交流サイトのグループだった。柔道の日本人コーチを探していると知り、気持ちが動いた。当時は日本代表ジュニアのコーチ。国内トップレベルの選手を教える喜びはあったが、「勝つだけではない、柔道の醍醐味を伝えたい」との思いもあった。「柔道が発展していない国の役に立てれば」。勤めていた愛知県警を辞め、飛行機に乗った。

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異国での指導は驚きの連続だった。練習に時間通りに集まらない。イスラム国家のため、礼拝の時間になれば、試合中でも中断してお祈りする。「日本の常識は通用しない」。練習に取り組む姿勢から伝え、少しずつ軌道に乗り始めた頃、仕事の手続きで日本へ帰国。その数日後、イランへの攻撃が始まり、サウジでも黒煙が上がった。

渡航前から不安定な情勢は覚悟していたつもりだった。だが、「現実に起きるとは十分に想定していなかった」。幸い、家族とは連絡が取れ、日本で再会。安心する一方、「もう一度サウジに戻るべきか」と悩んだ。周囲は反対。そんな時、思い出したのが、現地の練習後に言われた「コーチ、次はいつ教えてくれる?」との言葉だった。

指導がうまくいっているのか分からなかった時期にかけられた言葉。「常識や文化が違っても、柔道を通じて信頼関係が築けていると思えた。すごくうれしかった」。4月、単身で戻り、指導に復帰。攻撃前と後で、選手の様子に変わったところはない。ただ、代表チームの海外合宿は一時、中止となった。「選手も、見せないだけで不安を感じていると思う」

攻撃が始まって3カ月以上。先が見えない中、アジア大会には、自身も指導に携わった女子選手2人がサウジ代表で出場する。勝ち負けにはこだわらない。「互いに礼をし、相手を一人の柔道家として尊重する。そんな力がスポーツにはある」。愛知で、その魅力を感じてきてほしいと思う。

中東情勢、選考や選手強化に影響

中東情勢の影響はアジア大会の代表選考や選手強化にも及んでいる。

日本スカッシュ協会は4月にパキスタンで開催予定だったアジア選手権団体戦への派遣を取りやめた。アジア大会代表に内定している選手らが渡航予定だったが、イランの隣国であり、協会の佐野公彦事務局長は「移動も含めて選手の安全が脅かされる可能性を考えた」と説明する。

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日本近代五種協会も4月にエジプトで開かれたワールドカップ第1戦への選手派遣を見送った。5月のブルガリアでの第2戦の成績と合わせてアジア大会代表を選ぶ予定だったが、ブルガリアでの結果のみを基に選考することになり、協会の川村勇気事務局長代理は「自分の力を測る機会である大会が一つなくなる影響は軽くない」と話した。

新体操では3月のギリシャの大会への選手派遣を中止した。アジア大会の代表選考を兼ねていたが、国内の選考会に切り替えた。

アジア大会にはイランを含む中東諸国も参加する。組織委によると、国際情勢による不参加などの情報は入っていない。大会を主催するアジア・オリンピック評議会(OCA)の幹部は4月、選手の来日が難しくなった場合、OCAの負担でチャーター機の手配を検討する考えを示したが、組織委関係者は「大会は規模が大きく、チャーター機を必要なだけ確保するのは難しいかもしれない」と指摘する。