「龍一、靴を履いてくれ」 雷が落ちて、りくりゅうが結成された日 フィギュアペアの新たな始まり
「龍一、靴を履いてくれ」 りくりゅう結成の日と新たな始まり

「龍一、靴を履いてくれ」 雷が落ちて、りくりゅうが結成された日

2026年2月16日、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックのフィギュアスケートペアショートプログラムの演技に臨む三浦璃来(24)と木原龍一(33)の姿があった。この冬、二人は大会出場のために名古屋に帰郷していた。

古巣のリンクで練習を重ねる中、木原は隣接する研修宿泊施設を指さしながら語りかけた。「僕、ここのフロントで働いていたことがあるんだよ」。それに対し、三浦は「その話、何回も聞いてるよ」と軽く返した。何気ない会話の裏には、二人の絆を深めた特別な過去が隠されていた。

引退の危機とアルバイト生活

7年前、木原龍一はフィギュアスケートをやめようと考えていた。2014年ソチオリンピックと2018年平昌オリンピックの2大会に出場した実績を持つものの、肩のけがや脳振盪に悩まされ、2019年春には前のパートナーとのペアを解散していた。

アメリカから帰国後、愛知県に戻った木原は、幼少期から練習を積んできたリンク「邦和スポーツ&カルチャー」でアルバイトを始めた。当時26歳。同世代の友人たちは社会で働き始める中、木原は複雑な思いを抱えていた。

「僕はペアに向いていない。シングルで国体をめざして、やめようかな」。そんな迷いを胸に、施設を運営する東邦ガス不動産開発の飯岡裕輔さん(34)との面接に臨んだ。飯岡さんは当時を振り返り、「スケートしかしてきていないことを、負い目に感じているようだった」と語っている。

リンクでの日々と子供たちとの交流

アルバイトでは、東海市の実家から車で通勤し、貸し靴の受け渡しや氷上の監視業務を担当。宿泊施設では宿直も経験した。リンクに訪れる小さな子供たちには、ひざをついて175センチの体を小さくし、目線を合わせて話しかける姿が印象的だった。

このホームリンクでの経験が、木原の心境に変化をもたらした。スケートへの情熱が再燃し、新たなパートナーとして三浦璃来とのペア「りくりゅう」が結成される運びとなった。二人の出会いは、まるで雷が落ちたかのような衝撃的な瞬間だったという。

ミラノ・コルティナ五輪への挑戦

現在、りくりゅうはミラノ・コルティナ冬季オリンピックを目指して練習に励んでいる。ショートプログラムでは5位発進と苦しいスタートを切ったものの、巻き返しを図る姿勢は強い。「いつもの感じで戻ってくる」という言葉に、二人の確かな自信がにじんでいる。

木原のアルバイト経験は、単なる過去のエピソードではなく、現在のパフォーマンスに活かされている。リンクでの業務を通じて得た気配りや細やかな注意力は、ペアスケートにおいて不可欠な要素となっている。

三浦璃来とのコンビネーションは日に日に磨きがかかり、一回り成長した今季の演技が期待されている。二人の絆は、練習場だけではなく、日常の何気ない会話や共同生活の中でも深まっているようだ。

フィギュアスケート界において、木原龍一が上げたペアの地位は確固たるものがある。しかし、その背景には挫折と再生の物語が存在する。りくりゅうの結成は、単なるパートナー変更ではなく、二人の人生が交差した奇跡的な瞬間だった。

今、名古屋のリンクで練習に汗を流す二人の姿は、過去の苦難を乗り越え、新たな頂点を目指すアスリートの輝きに満ちている。ミラノ・コルティナ五輪への道のりはまだ続くが、りくりゅうの歩みは確実に歴史を刻みつつある。