江原啓之著『霊学』書評 霊的真理と生きる意味を問う
江原啓之著『霊学』書評 霊的真理と生きる意味

霊的真理と生きる意味

評・奥野克巳(人類学者・立教大教授)

一九九〇年代半ば、私はボルネオ島で二年間のシャーマニズム調査を終えて帰国した。その後、二〇〇〇年代初頭になると、江原啓之の名を冠したテレビ番組が世間に一大ブームを巻き起こした。

父親が落命し、息子が助かった水難事故の回では、生き残った男児が、自分のせいで父が死んだという深い自責の念に苛まれていた。江原が事故状況や、霊視した死者の思いを語ると、男児は苦悩から少しずつ解き放たれていった。その光景は、ボルネオのシャーマンそのものだった。江原は霊界と現世を媒介し、人々を癒やしへと導く卓越した霊媒だ。

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本書では霊媒のみならず、神や霊からのメッセージの真偽を見極める「審神者」の役割の重さが強調される。巻末に収められた交霊会の記録は圧巻の一言。

本書はスピリチュアルな現世利益を説く指南書や体験録ではない。英国で近代スピリチュアリズムを学んだ著者が、独自の深化と内的成熟を遂げた日本の霊学を継承、発展させようと試みる。霊的真理と心霊研究に基づき、それを体系的に理論化しようとする野心的な著作だ。

一貫して追究されるのは、人はなぜ生まれ、いかに生きるのかという問いである。現世とはたましいの成長のための仮初の場であり、人生に訪れる苦難や病ですら深い意味を宿しているという視座は、胸に迫る切実さを帯びている。「人生とは、経験し、感動し、そしてたましいとして成長していく旅」なのである。死後も霊的成長の旅を続け、やがて本来の光の故郷へと還っていくのだという。

著者は、スピリチュアルへの安易な依存を戒め、肝要なのは、偽りの霊言や誤った導きに惑わされず、霊的な真偽を見抜く力を養うことだと説く。その意味で本書は、消費社会に氾濫するスピリチュアルな俗説と一線を画している。

本書は、人間にはいまだ理性だけでは説明しきれない深みがあることを想起させる。現世の物質的価値観では汲み尽くせない死者との絆、その悲しみの奥底にある霊的真理、そして生の意味を見つめ直す一冊として、深い余韻に満ちている。(二六四〇円)

読書委員プロフィル

奥野克巳(おくの・かつみ) 一九六二年生まれ。人類学者・立教大教授。ボルネオ島に暮らす先住民・プナンのもとでフィールドワークを続ける。著書に『絡まり合う生命』など。

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