緊急地震速報の音はなぜ「驚かされすぎる」のか?スマホとテレビの作成者が語る工夫と葛藤
緊急地震速報の音はなぜ「驚かされすぎる」?作成者の思い

緊急地震速報の音はなぜ「驚かされすぎる」のか?

スマートフォンやテレビから流れる緊急地震速報の音について、「驚かされすぎる。改善できないか」という大学生の声が東京新聞の発言欄「若者の声」に寄せられた。確かに、あの音を耳にした途端、尋常ならざる緊張感が漂い、行動をせき立てられるような感覚に襲われる。3.11を前に、なぜあのような音が選ばれたのか。スマホ用とテレビ用の警報音を作成した二人の専門家に、その工夫と思いを聞いた。

スマホ用「ウィーン!」の作成者:環境音楽家・小久保隆氏

震度5弱以上の地震が予測されると気象庁が発表する緊急地震速報。スマホから鳴り響く「ウィーン! ウィーン! ウィーン!」という音は、環境音楽家の小久保隆氏(69)が2007年に作成した。携帯大手NTTドコモからの依頼を受け、気象庁の要請に応じて制作したという。

「目的は人の命を救うことです」と小久保氏は語る。「数秒後に地震が来ると知らせ、行動に向かわせるための音を考え続けました」。寝ている状態でも脳が気付くためには、日常にはない非日常性や緊急性が必要だ。低音から高音へ一気に駆け上がる音なら、スマホがバッグやポケットの中にあっても、どこかの周波数で耳に届くはず。これを3回繰り返すことで、「今すぐに行動を」と訴えかける設計だ。

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スマホの小さなスピーカーではっきり聞こえる音域にもこだわり、電子音を合成した。「一般的な音楽のように、嫌なら聴かなくていいものではありません。はっきり届ける責任があるのです」と強調する。

しかし、2011年の東日本大震災では想定外の事態が発生。頻発する余震で警報音が繰り返し鳴り響き、「めったに流れない音として注意喚起の度が高い『超激辛』に作ったのに、何度も食べる状態になってしまった」と振り返る。あの音がトラウマになった被災者もおり、申し訳ない気持ちになったという。

それでも、「注意喚起度を下げたら、救える命も救えない」との信念は変わらない。根付いた公共の音を簡単に替えるわけにもいかないが、「今ならもう少し恐怖の度合いを抑えて、注意喚起の力がある音を作れるかな」と複雑な思いを吐露した。

テレビ用「チャラン」の作成者:福祉工学専門・伊福部達氏

テレビやラジオから流れる「チャラン チャラン」という音を作成したのは、東京大学と北海道大学の名誉教授で福祉工学が専門の伊福部達氏(79)だ。同じく2007年、NHKからの依頼を受けて制作した。

伊福部氏は、ゴジラのテーマ曲を作曲した伊福部昭氏のおいっ子。速報音作りには、叔父の昭氏が手がけた交響曲「シンフォニア・タプカーラ」第3楽章を参考にした。この曲は、故郷・北海道のアイヌ民族の踊りをモチーフに「立ち上がれ、踊り出せ」ともり立てるもので、冒頭の不協和音が「何か来るぞ、行動しなきゃ」というメッセージを発しているように感じていた。それをヒントに、適度な緊張感のある和音を選び、速報音の「チャラン」を生み出した。

さらに、2回目の「チャラン」を1回目より半音上げることで、意識を前のめりにさせる工夫を施した。ゴジラのテーマ曲でも、同じフレーズを音を上げて繰り返し、高揚させる手法が使われている。

実は、ゴジラのテーマ曲の一部を使うことも検討したという。「叔父の曲を残せたらとの下心もあって」と明かす。しかし、あまりに有名な曲ゆえ、音楽として聞き流されてしまう恐れがある。聞いたことのないメロディーの方が適切と判断し、候補から外した。

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音選びは極めて慎重に行われた。膨大な種類の音を作り、1つずつ聴き比べて絞り込んだ。高齢化で聞こえにくい人が増えることも考慮し、専門家を交えた実験も実施。身の回りの雑音やゲーム音の中でも聞こえるか、難聴者や子どもを集め、試聴とアンケートを繰り返した。

東日本大震災が発生した時、伊福部氏は大学にいた。構内のスピーカーから同時に速報音が流れ、「自分で作ったが、すごく怖く感じた」と回想する。当時のつらさを思い出す被災者を思うと複雑な気持ちになるが、「速報音で逃げて助かった人もいると聞く。ないよりはよかったと思っている」と語る。

命を救う音の在り方

緊急地震速報の音は、単なる警告ではなく、瞬時の行動を促す命綱だ。小久保氏と伊福部氏の取り組みからは、技術的な工夫だけでなく、社会的責任への深い自覚が窺える。

  • スマホ用音声:低音から高音への急上昇で、あらゆる状況で認知を確保
  • テレビ用音声:不協和音と半音上げで、緊張感と前のめりの意識を喚起
  • 共通の課題:東日本大震災の経験から、トラウマと注意喚起のバランス

両氏の葛藤は、災害大国・日本における警報システムの難しさを映し出す。「驚かされすぎる」という声は、音の効果が十分に発揮されている証左かもしれない。しかし、被災者の心の傷も無視できない。今後の技術革新や社会の変化に合わせ、音の在り方が見直される日が来るかもしれない。

緊急地震速報の音は、私たちに迫り来る危機を告げると同時に、作り手の思いと責任を伝え続けている。