震災直後の癒しのひととき、天童温泉への入浴バス
東日本大震災から間もなくひと月が経とうとしていた4月初めのことです。ラジオからは、絶え間なく続く余震の中、一筋の光のようなニュースが流れました。山形の天童温泉から、被災者を入浴させるためのバスが出るというのです。先着20人という限られた枠に、私と同様に、伸びた白髪も汚れも気にせず集まった女性たちが乗り込みました。
久しぶりの風呂で分かち合った笑いと涙
久しぶりに迎えた風呂の時間は、何とも言えない安らぎをもたらしました。二度三度と洗い直すものの、泡の立たないシャンプーや石鹸を使い、体をこすりました。そのタオルをすすぐ度に、洗面器にあかが浮かび続ける様子に、皆で思わず笑い合ったのです。疲れた背中を流し合いながら、海へと消えた人々を想い、涙も流しました。そして、手を合わせて祈りを捧げました。
なみなみと湯の張られた浴槽に肩までつかると、生きていることのありがたさをしみじみと感じました。この瞬間、被災の苦しみが少し和らぎ、希望の灯がともったような気がしたものです。夕刻近く、体に湯のぬくもりを残しつつ、各自が火の気のない傷ついた自宅へと戻りました。
復興への道のりと心の揺らぎ
しかし、翌日には予想もしない大きな揺れが再び襲いました。やっと進んだかに見えた工事はストップし、人々のいらだちと落胆は深まるばかりでした。先の見えない復興への道のりに、心が折れそうになることもありました。神サンさえ恨んだ瞬間さえあったのです。15年前のそんな出来事を、今も鮮明に思い返しています。
現在の入浴中に蘇る記憶
そんな記憶が蘇っていた入浴の途中、突然、浴室の戸をたたく音がしました。即座に身構え、頭を守る準備をしましたが、それは私の長風呂に気づいた夫のノックだったのです。震災の恐怖が、今も無意識に体に刻まれていることを痛感しました。千葉洋子(75) 仙台市太白区



