憧れの日本で夢の職業に インドネシア人女性がバス運転士に
門出の春を迎え、全国の運輸業界で外国人運転者が続々と誕生している。国内では高齢化や人口減少を背景にドライバー不足が慢性化し、過疎化が進む地方ではその深刻度が増している。地域交通を支える担い手に、国際化の波が急速に押し寄せている現状が浮き彫りだ。
日本初の女性外国人バス運転士が誕生
川崎市の閑静な住宅街にある東急バスの営業所では、専門性がある外国人が就労できる在留資格「特定技能」枠から、日本初の女性バス運転士が3月15日に誕生した。インドネシア人のマハトミ・リスマルタンティさん(26)はこの日、初めての乗務を無事に終えた。
大学卒業後は通信会社などで働いたリスマルタンティさんは、東急バスの運転士募集を知り「憧れの日本で憧れのバスの運転ができる」と転職を決断。母国で技能評価試験や日本語能力試験に合格し、昨年9月に初来日を果たした。大型2種免許を取得後は、社内で運転技術や接客マナーの教習に熱心に取り組んだ。
アニメ好きが高じて日本へ
「日本のアニメを見て育ち、世界でヒットしたアニメ映画『君の名は。』をテーマに大学の卒業論文を書きました」と語るリスマルタンティさんは、アニメ好きが高じて日本語を学び、大の日本好きになったという。
実家はジャワ島東部の農家で、母親が収穫した作物を運ぶトラックを運転する姿が身近だった。「大きな車を運転するのはかっこいい。お客さまを乗せるバスの運転は最高にクール」と思い、地元の大学の日本文学科に進学。卒業後はコールセンターや事務の仕事をしたが、日本でバスの運転士ができる機会に飛びついた。
特殊な業務用語を覚えるのに一番苦労したが、今ではすっかり慣れ「お客さまに安全と笑顔を届けたい」と抱負を語る。
東急バス、外国人採用を拡大へ
東急バスはリスマルタンティさんを含むインドネシア人の男女3人を初の外国人運転士として採用した。同社は「毎年100人規模の運転士を募集し、多様性推進のため、当面はそのうち1割程度を目途に外国人を採用する」という目標を掲げている。
秋山勝久人財開発部長は「国際化が進む中、多様な人材の活躍が不可欠だ」と語り、外国人採用の拡大に意欲を見せた。
地方でも外国人材受け入れが活発化
地方の運輸業界では、人手不足への危機感が一層強い。徳島市の広沢自動車学校は、トラック運転者を志すベトナム人材を県内外の運輸企業に橋渡ししている。同社が運転教習を担当し、関連企業が日本語や生活面の支援を担う仕組みだ。
ベトナム人材は現地の提携自動車教習所で日本の交通安全ルールの集中指導を受けた後に来日。昨年は計33人が日本の免許を取得して国内の運送会社に就職した。今年はインドネシアなどからも受け入れ、目標人数を100人とする計画で、タクシーの運転志望者にも門戸を広げる方針だ。
同校の祖川嗣朗社長は「日本人以上の安全運転レベルに育成し、人手不足解消と社会の安心感を両立させる」と語る。
家族と共に日本で暮らす夢も
特定技能枠で同期入社したインドネシア人男性のバグス・エンドラ・ワルダナさん(39)は「この会社で定年まで運転士を続けたい」と決意を語る。20代で技能実習生として日本で3年間勤務した経験があり、帰国後は日系企業の日本語通訳などを担当した。
現在はジャワ島中部に妻と長女、長男の家族を残して単身赴任中だ。バスなど自動車運送業の特定技能枠は現状では、期間が最長5年の1号だけで、事実上永住が可能で家族も暮らせる2号はない。「運転が好きで日本語も上達した。将来2号が認められれば家族を呼び寄せ、子どもたちは日本の学校に通わせたい」と夢を語った。
特定技能制度の拡大が後押し
特定技能は、日本の人手不足対策として2019年度に新設された在留資格だ。専門性や技能を持ち、即戦力となる外国人労働者を対象としている。最長5年働ける「1号」と、条件を満たせば配偶者や子どもを帯同でき、事実上の永住も可能な「2号」がある。
1号は当初12分野だったが、2024年には自動車運送業を含む4分野を追加。2026年1月には物流倉庫など3分野の追加を閣議決定した。2024~28年度の5年間で1号の受け入れ上限は80万5700人に設定されている。
高齢化と人口減少が進む日本で、地域交通を支える外国人材の存在感が日に日に増している。憧れの地で夢を実現した外国人労働者たちの活躍が、日本の社会インフラを支える新たな力となりつつある。



