車いす生活の19歳が接客業で夢を実現 愛媛・道後商店街のパイ専門店で活躍
生まれつき下半身にまひがあり、生活に車いすが欠かせない宮本玲於さん(19)が、愛媛県松山市の道後商店街にあるパイ専門店「Tsutsumi道後店」で接客業に挑戦している。人と関わり、笑顔にする仕事を夢見て、半年前から働き始めた宮本さんは、その明るい笑顔で多くの客を引き付け、地域で注目を集めている。
車いすを「武器」に変え、店先で積極的に声かけ
こんがり焼けたパイの甘い香りが漂う店先で、宮本さんは車いすに乗りながら、通りかかる人々に明るく声を張り上げる。「県産の紅はるかを使ったスイートポテトパイはいかがですか」と勧め、足を止めた客には、生地の違いや素材のこだわりを丁寧に説明する。宮本さんは「車いすでの接客だからこそ、興味を持ってくれる人がいる。車いすは自分の強みである笑顔をアピールできる『武器』のような存在」と語り、前向きな姿勢を強調する。
困難をチャンスに変える転機 本との出会いで価値観が変化
幼い頃から車いすを使う宮本さんは、多くの人に話しかけられ、会話を楽しんでいた。しかし、特別支援学校中学部に進む頃から、視線を集めることが嫌になり、外出時に手を借りるたびに「自分はこんなこともできない」と落ち込み、自宅にこもりがちになった。そんな状況を変えたのは、海の事故で車いす生活となった毛利公一さんの著書「夢をかなえる挑壁思考」だった。困難をチャンスと捉え、前向きに壁を乗り越える考え方に触れ、価値観が揺さぶられた。「私たちは注目を浴びるからこそ、オシャレをするのだ」という言葉から、どう見られるかではなく、どう見せるかが大切だと意識が変化。身なりにも気を使うようになり、高等部では生徒会長を務め、人と話す楽しさを再認識した。
就職の壁と運営会社の支援 実習から採用へ
接客業を志した宮本さんだが、就職活動では壁が立ちはだかった。車いす利用者向けの求人は事務作業が中心で、接客業は見つからず、「やりたい仕事と、できる仕事は別なんだ」とやるせない思いを抱いた。諦めかけた時、声をかけてくれたのが「Tsutsumi」運営会社の児玉万年社長だった。同社では多くの障害者が働いており、特別支援学校の教員から話を聞き、宮本さんを実習生として受け入れることにした。宮本さんは複数回の実習で、次々と客に声をかけ、明るく応対。客からの評判は上々で、児玉社長は「人の心を動かす力がある。不安や制限がある中、前向きに乗り越える姿を示してくれた」と高く評価。卒業の3日前に採用が決まった。
手書きカード1000枚で準備 一人暮らしも始め活躍の場を広げる
宮本さんは昨年5月に在宅ワークを始め、同年9月の道後店オープンに備えて、「いつもここでお待ちしております」などと手書きしたカードを1000枚以上用意し、来客に配った。半年が過ぎた今では、店先での呼び込みだけでなく、ジェラートの仕込みや包み袋の製作も任される。常連客が差し入れをくれたり、街中で声をかけてくれたりすることも増え、地域に溶け込んでいる。就職を機に一人暮らしを始め、料理や入浴、買い物も工夫してこなす。宮本さんは「車いすでも接客業で活躍できると、自分の働き方を通して伝え、同じように悩む誰かの『やりたい』をかなえられる道筋を作りたい」と決意を語り、とびきりの笑顔を見せている。



