若者に浸透する「ネオダジャレ」、SNS時代の新たなコミュニケーションツール
近年、若者の間で「ヤバ杉謙信(上杉謙信)」や「了解道中膝栗毛(東海道中膝栗毛)」といった独特なダジャレが流行している。これらは「ネオダジャレ」とも呼ばれ、主にSNSやメッセージアプリ上での書き言葉として活用され、コミュニケーションを円滑にする役割を果たしている。背景には、デジタル時代における若者の言葉への敏感な意識が反映されている。
高校生の日常に溶け込むダジャレの活用
神奈川県内に住む高校2年生の女子生徒(17歳)は、同級生とのLINEでの会話で頻繁にダジャレを使用している。例えば、話題のドラマについて「おもしろかったね!」とメッセージが届いた際には、「たしカニ(カニの絵文字)!」と返信。友達が「これ1万円もしたよ」と報告してきたら、「やばい」という意味で「やばたにえん(食品メーカー・永谷園)」と応じる。彼女は「会話を楽しんでいる雰囲気や共感しているのが伝わる気がするから」と語り、ダジャレを送り合うことで仲の良さを確認する感覚もあると明かす。
スタンプで広がるネオダジャレの世界
ミュージカル俳優のかとう唯さん(35歳)は、2024年から2025年にかけて、LINEで使用できるダジャレスタンプを開発・販売している。無表情のナスのイラストを添えた「やる気ナス」や、怒った顔のつくね串と「むかつくね」など、ネガティブな言葉もトゲを感じさせないデザインが特徴だ。かとうさんは「返事に迷う場面でも明るく、やわらかく返せればと思い、作成した。コミュニケーションのクッションのような役割です」と意図を説明する。
若者の使用率が高い、ダジャレの新たなイメージ
博報堂生活総合研究所が2025年に実施した調査によると、首都圏・阪神圏などに住む20~69歳の男女1500人を対象に、3か月以内にダジャレを見聞きしたり使用したりしたかを年代別に尋ねたところ、20代が21%と最も高く、年代が上がるにつれて低くなる傾向があった。一方、「ダジャレは面白くない」「時代遅れ」といった否定的な意識は60代が39%と最も高かった。調査を担当した松井博代さんは「ダジャレは『オヤジギャグ』ともいわれるほど、高齢者が使用するイメージが強いが、今では若者のほうが親しんでいる」と分析する。
SNS時代のコミュニケーションとダジャレの役割
従来のダジャレは、「布団がふっとんだ」などが飲み会や職場での対面会話で使用され、笑いをとることが主目的だった。しかし、現在ではSNSのやりとりの中で、コミュニケーションを円滑に進めるために活用されている。若者の主要なコミュニケーション手段であるSNSやメッセージアプリでは、文字だけのやりとりだとそっけなくなりがちだ。文章を通じて信頼関係を築く重要性が増しており、ダジャレが多用されていると松井さんは指摘する。「文末が『。』で終わると、威圧感を感じるという『マルハラ(マルハスメント)』が話題になるように、今の若者は読み手に与える印象に敏感。相手への気遣いの一種なのでは」と推察する。
平和な笑いをもたらすダジャレの効能
「日本だじゃれ活用協会」代表理事の鈴木英智佳さん(51歳)は「ダジャレは、『平和な笑い』をもたらす効能がある。使い勝手の良さが受けているのでは」と話す。「ハラスメント意識が高まる中、誰かをおとしめたり、傷つけたりしない笑いを求める人々の感性にも合う」と語る。同協会では、小学校や学童・保育施設などでダジャレの作り方を教える出張授業を行っており、楽しみながら創造力や言葉への関心、教養も育まれるという。「タイパ(時間対効果)が重視され、雑談や他者との関わりなどを敬遠する風潮があるが、ユーモアは人と人をつなぐ。これからの時代を生きる子どもや若い世代に実践してほしい」と強調する。
日本の言葉遊び文化の歴史的背景
日本では古くから言葉遊びに親しむ文化がある。フェリス女学院大学教授の斎藤孝滋さん(言語研究)によると、一つの言葉に二つ以上の意味を持たせる「掛詞(かけことば)」の技法は奈良時代の歌集「万葉集」にも見られる。平安時代には掛詞を用いた歌が多く詠まれ、百人一首の「たち別れ いなばの山の 峰に生(お)ふる まつとし聞かば 今帰り来む」(在原行平)では、「松」「待つ」などが掛詞になっている。江戸時代には語呂合わせなどの言葉遊びが庶民にも流行した。言葉遊びを好む理由について斎藤さんは、〈1〉日本語は同音異義語が多く、ダジャレを作りやすい〈2〉歴史的に庶民の識字率が高く、知的な娯楽として広まる土壌があった――点を挙げ、「形を変えながら生活に根付いてきた」と話す。
