PTA業務の「カイゼン」で見えた新たな可能性 愛知・豊田市の小学校で起きた変化
「負担が大きいから関わりたくない」――多くの保護者が抱くPTAへのイメージだ。全国的に役員のなり手不足が深刻化し、解散に追い込まれる組織も現れる中、愛知県豊田市藤岡飯野町の飯野小学校PTAが注目を集めている。画期的な改革により、業務負担を大幅に軽減しながら、組織の存続と活性化に成功したからだ。
「仕方なく」始まった改革の道のり
改革の中心人物は、2023年度に副会長、2024年度に会長を務めた細野恵哉さん(61)。「なりたくてなったわけじゃありません。近所の奥さんたちに6時間説得され、仕方なかったんですよ」と苦笑いしながら当時を振り返る。
細野さんがPTA内部に入って気付いたのは、とにかく無駄が多い現実だった。役員は27人、会議は年6回。年2回発行の広報誌作りには写真選びなど多大な労力が必要だったが、発行時にはすでにタイムリーな内容ではなくなっていることが多かった。
トヨタ流「カイゼン」手法をPTAに応用
細野さんは55歳までの35年間、トヨタ系の下請け会社で働いた経験を持つ。「PTAの問題点を洗い出して変えていく。つまりカイゼンですよ」と語る。役員経験者や保護者、近隣小中学校の校長らからのヒアリングを基に改善点をまとめ、他の役員たちと話し合いを重ねながら「ぜい肉」をそぎ落としていった。
具体的な改革内容は以下の通りだ。
- 役員数を27人から6人に削減
- 会議を年6回から年2回に圧縮
- 広報誌を完全廃止
- 保護者に強制していた登校時の交通当番を廃止
最大の課題「あて職」問題にメスを入れる
細野さんがPTAが敬遠される最大のネックとみたのは、「あて職」の存在だった。役員になると自動的に地区コミュニティ会議の委員にならなければならない慣例が、負担をさらに増大させていた。
藤岡地区コミュニティ会議は年6回の委員会に加え、様々なイベントを開催しており、PTAよりも活動内容が多かった。細野さんはこの慣例の廃止を求め、同会議に要望書を提出した。
世代を超えた理解と協力
当初は渋っていた阿垣剛史会長(81)も、「このままではPTAは崩壊してしまう」と訴える細野さんの考えを理解し、受け入れてくれたという。阿垣さんは「ワシらの世代にはPTA解散なんて考えれんこと。子供たちのためにもPTAを残さんといかんと思った」と当時の心境を語る。
予想外の効果:強制廃止が自主性を生む
改革の中で最も興味深い現象が起きた。強制的な交通当番を廃止したところ、逆に自主的に引き受ける人が現れたのだ。現在、2人の子供が同小に通う池野恵理さん(45)はその一人。「強制されていた頃はちゃんと行かなきゃと思っていたが、今は気軽に行ける。自分の子供だけでなく、ほかの子供たちも見守ろうという気持ちにもなった」と語る。
「負担なく、無理なく、簡単に」が評価される
「負担なく、無理なく、簡単に」をスローガンにした改革が高く評価され、同PTAは2025年度の優良PTA文部科学大臣表彰を受賞した。これは全国的に見ても極めて稀な快挙と言える。
改革の根底にある思い
細野さんが改革に取り組んできた背景には、「PTAが消滅すれば学校と保護者、また保護者同士のつながりが今以上に希薄になってしまう」という危機感があった。だからこそ、他のPTAでも地域の実情に合ったやり方で「カイゼン」に挑戦してほしいと考えている。
現在は林宗寺の住職を務める細野さんだが、企業時代に培った改善手法を地域活動に活かしたことで、PTAの在り方に新たな可能性を示した。この取り組みは、全国のPTAが抱える課題解決の一つのモデルケースとして注目を集めている。



