伝統の実験重視教育にデジタル革新を融合、新時代の理系人材育成へ
大阪市に所在する大谷中学校・高等学校は、長年にわたり理系教育に注力してきた女子校として知られている。2023年度に萩原英治校長が就任し、翌2024年度には文部科学省の「DXハイスクール」事業に申請、採択を受けた。同校は現在、物理・生物・データサイエンスを融合した学びを通じて、「デジタル理系女子」の育成を推進している。萩原校長は、理科を中心とする教育の特色や目指す生徒像について、詳細な展望を語った。
昭和初期からの理科教育伝統と充実した設備環境
萩原校長は1988年に大阪府立高校の英語教員としてキャリアを開始し、教頭や府教委勤務を経て複数の府立高校校長を歴任。2023年4月に大谷中学校・高等学校の校長に就任した。同校の理科教育は昭和初期から力を入れており、物理、生物、化学の専門教室に加え、中学理科教室を備えている。化学室には実験中のガスを安全に排出するドラフトチャンバーが設置され、生物教室では生徒一人一台の光学顕微鏡を活用。これらの設備を用いた実験や観察を通じ、実物に触れることで生徒の理解と興味を高めている。
同校では、生徒の将来像に合わせて3コース制を採用。医学部・歯学部・薬学部や最難関国公立・私立大学の理系学部進学を目指す「医進コース」、高校2年から文系・理系クラスを選択し難関大学進学を目指す「特進コース」、英語力を習得してグローバルに活躍する女性を育成する「凛花コース」がある。凛花コースは文系特化だが、他のコース同様に実験中心の理科授業を実施している。
ユニークな物理授業と理科教育研究所の設立
特に物理の授業では、教員が中心となり発泡スチロールなど身近な材料で実験器具を自作させるなど、独自のアプローチを展開。ホームセンターで入手可能な調理用金属ボウルや水道管を用いて、強い静電気を発生させるバンデグラフを製作する取り組みも行っている。これらの実績が評価され、東レ理科教育賞と文部科学大臣賞を受賞した。
理科への教育熱は他科目の教員にも波及し、2021年には理科教員による学内組織「理科教育研究所」が設立された。教員の研究環境を整備し、生徒にコンテストや発表会の機会を提供。これまでにJSEC高校生・高専生科学技術チャレンジや高校化学グランドコンテストなどへ出場している。
DXハイスクールとしての新たな教育構想
萩原校長は、デジタルスキルが不可欠な社会を見据え、同校の理科教育の強みとデジタル思考を融合した探究的取り組みを目指している。毎週議論を重ね、大学から講師を招いて生成AIに関する教員向け講義や、生徒向けデータサイエンス講座を実施。ハード面では高性能パソコン、3Dプリンター、計測機器を配備し、生徒が議論やプレゼンテーションを行う「探究ルーム」を設置した。
これらの準備を経て、2025年度には医進コース内のS理系コース(高校2年)で新科目「DX科学探究」を開講。データサイエンスや生成AIを学び、理科実験で得たデータを分析・探究する内容で、理科教育研究所や情報科教員、系列の大阪大谷大学と連携して指導する。物理・生物・デジタル技術を融合させ、探究的な課題研究へ発展させることを目指している。
6割近い理系進学を支える手厚いサポート体制
同校の卒業生の約6割が理系に進学しており、国が理系女子増加を推進する以前から高い実績を維持。実験中心の授業を通じて、生徒が自然に理系へ興味を持つ土壌が形成されている。入学前から理系教育の取り組みや進学実績を積極的に発信し、理系志望の家庭にとって有力な選択肢となっている。
入学後は、理系分野で活躍する卒業生を招き、話を聞く機会を多く設けている。身近なロールモデルとの交流が、生徒の学習意欲やキャリア意識向上に貢献しているという。進路サポートでは、総合型選抜や学校推薦型選抜に向けた小論文・面接指導に長年のデータ蓄積があり、医学部専門予備校との提携で専門知識を強化。2026年度入試では滋賀医科大学医学科に学校推薦型選抜での合格者を出している。
学習習慣の定着と今後の展望
萩原校長は、中学受験で入学した生徒の学力をさらに伸ばすため、学習習慣の定着が不可欠と指摘。2年前から中学1・2年生を対象に、全員必修の放課後自習システム「O.S.R(大谷スタディールーム)」を導入した。チューター指導の下、週1回以上の学習習慣を付け、基礎学力を徹底的に定着させることを目指している。
「生徒たちの学力の伸びを保証していくのが私の役割」と語る萩原校長は、手厚い個別サポートとキャリア教育を通じて、生徒一人一人の未来を切り開いていきたいと願っている。伝統的な理科教育と最新のデジタル技術を結びつけた同校の取り組みは、新時代の理系人材育成のモデルとして注目を集めている。



