「寝ても起きても誰かがいた」京大吉田寮現棟、築113年の歴史に幕 一時退去期限を迎え
京大吉田寮現棟が一時退去 築113年の歴史に幕 (31.03.2026)

築113年の歴史に別れ 京大吉田寮現棟が一時退去期限

京都大学の吉田寮「現棟」は2026年3月31日、寮生たちの一時退去期限を迎えた。耐震化工事の実施に伴う措置で、築113年を数える歴史的な建物から、家具や生活用品などの荷物が次々と運び出された。寮生たちは作業に追われながらも、現棟の現在の姿を惜しみ、工事後も変わらぬ自治の存続を強く願った。

最後の日も響く助け合いの声

「現在、南寮2階の掃除をしています。手が空いている人は来てください」「最終日楽しんでいこう!」。古い窓や屋根を打つ雨音とともに、寮内では時折そんな放送が聞こえた。居室や廊下では「ビニールひもある?」「このゴミ袋はどこへ持って行く?」と、寮生や卒寮生たちが活発に声をかけ合いながら引っ越し作業を進める姿が見られた。

現棟内の荷物は、玄関先から数十メートルの場所に2015年に建てられた新棟や、中間にある食堂へと移された。室内に入りきらない家電や棚、机、ソファなどが外に積み上げられる光景も。4月1日には大学側の職員が退去完了の状況確認に訪れる予定だ。

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和解を経て決まった一時退去

吉田寮現棟は1913年に建設された。大学側が建物の老朽化などを理由に寮生たちに現棟と食堂の明け渡しを求めた訴訟は、2025年8月に大阪高等裁判所で和解が成立。今年3月末に寮生たちが現棟から一時退去し、耐震工事が行われることが正式に決まった。工事完了後には寮生たちが戻る予定となっているが、工事の詳細内容や建物の将来像については依然として不透明な部分が残されている。

セーフティーネットとしての役割

吉田寮は経済的に苦しい学生のセーフティーネットとして機能し、長年にわたり寮生自身が運営してきた共同生活の場として知られる。原田明弘さん(21)は、入学後一人暮らしをしていた時期について「孤立感があり、精神的にしんどかった」と振り返る。多様な属性を受け入れる自治寮の存在を知り、2024年4月に入寮を決意した。

「ここにいると助け合えるという安心感がある。困窮は経済的な要因だけではない。こういう場所が必要だ」と原田さんは語った。吉田寮では「寝ても起きても誰かがいた」という共同生活の温かさが、多くの学生にとって心の支えとなってきた。

昨年春に寮に入った小林律輝さんも、独特のコミュニティの価値を実感している一人だ。築113年の楽園とも称される空間は、人も汚れも受け入れる寛容さを持ち、切り捨てない暮らしの哲学が息づいている。

一時退去という大きな転換点を迎えながらも、寮生たちはこの場所で培われた絆と自治の精神が、工事後も引き継がれることを切に願っている。京都大学吉田南構内に位置する歴史ある学生寮の、新たな章が始まろうとしている。

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