静岡県の大井川鉄道井川線が、7月1日から最大20倍強となる運賃値上げに踏み切る。秘境の渓谷を走ることで知られる同線は、現在の普通運賃が片道170円~810円だが、7月からは全区間一律3500円となる。地元からは「値上げ幅が大きすぎる。観光客が減るのでは」という不安の声があがる。実際に乗車し、乗客たちの生の声を聞いた。
値上げの背景と計画
井川線は、大井川鐵道が運行する全長約25キロの山岳鉄道。沿線には絶景の渓谷やアプト式区間があり、観光客に人気だ。しかし、利用者減少や老朽化した設備の更新費用捻出のため、思い切った値上げに踏み切るという。5月下旬の土曜日、記者は始発駅の千頭駅を訪れた。改札を入ると、始発電車を待つ乗客が100人近く集まっていた。
乗客の反応は
小型のディーゼル機関車に引かれた真っ赤な車両がホームに入ってくる。古びた塗装がレトロ感を醸し出す。5両編成の最後尾に乗り込み、片道約2時間の旅へ出発した。車内では「静岡県ワンダーフォーゲル会」の一行20人と一緒になった。終点の先に続く廃線跡を歩くツアーだという。リーダーの男性(71)に値上げについて尋ねると、「高い。次は車で行くことになるかな」と厳しい表情を見せた。
別の乗客からは「景色は素晴らしいが、この値段では家族連れは来にくい」「観光列車としての価値は認めるが、地元の足としても使われているのに」といった声も聞かれた。一方で、「特別な体験として割り切れば、妥当な価格かもしれない」と理解を示す人もいた。
絶景続く井川線の魅力
井川線は、国内最大の勾配を誇るアプト式区間があり、後ろから機関車が押す光景は圧巻だ。車窓からは大井川の清流や深い渓谷美が広がり、紅葉の季節には多くの観光客が訪れる。また、途中の駅では温泉やハイキングを楽しむこともでき、観光資源としてのポテンシャルは高い。
観光列車としての課題
今回の値上げにより、井川線は7月から全便が観光列車となる。しかし、地元住民の利用や通学・通勤の足としての役割も担ってきただけに、値上げによる影響は大きい。鉄道会社は「観光客の増加で収益を上げ、路線を維持したい」と説明するが、乗客からは「観光客ばかりを狙った値上げでは、地元が置き去りにされる」との批判も出ている。
今後、観光客の反応や利用者数の推移が注目される。大井川鉄道は、この難しい舵取りをどう乗り切るのか。秘境の鉄道が直面する課題は、全国の地方鉄道にも通じるものがある。



