「なんだ、これは!?」――東京都写真美術館で行われている「養老孟司と小檜山賢二の虫展」は、訪れる人々に驚きと発見を与えている。わずか数ミリから数センチの虫たちの写真が、特殊技術によって数百倍に拡大され、その細部までくっきりと浮かび上がる。名前の通り首が長い「ロクロクビオトシブミ」、宝石を散りばめたような「ミドリシマゾウムシ」、2.5ミリながら触ると痛そうな「トゲトゲクロサルゾウムシ」……。どれも「なんだ、虫か」では済ませられない多様性に満ちている。
人間の効率優先主義を問い直す
この展覧会は、せっかちな現代人に一石を投じる。文芸評論家の小林秀雄はかつて、「花を黙って見続けていれば、花は限りなく美しさを明かす」と述べた。しかし、私たちは「なんだ、スミレか」とすぐに分かった気になり、色や形をじっくり見ない。効率を重視するタイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)の風潮が、物事を深く感じる力を奪っているのかもしれない。
解剖学者の養老孟司さん(88歳)は、虫の形がなぜ多彩なのかについて、「虫は小さく重力の制約が少ないため、とんでもない形になる。しかし、それは計算してできたものではなく、なるべくしてなったもの。ありのままを見て感じてほしい」と語る。虫を害虫や益虫に分類するのも人間の都合であり、虫はただ生きているだけだという。
虫展が伝えるメッセージ
- 人間は1種類、昆虫は未発見のものを含め300万~1000万種
- ロケットを打ち上げる時代でも、人間はハエ一匹作り出せない
養老さんは幼い頃から虫好きで、「おじいちゃんなのに、なぜ虫を採るの?」と聞かれると、「違う、違う。虫を採っていたらおじいちゃんになったんです」と答えるという。その言葉には、自然への畏敬と謙虚さが込められている。
会場には、小林秀雄の「美を求める心」の一節も展示されている。「花を黙って見続けていれば、花は諸君に、かつて見た事もなかった様な美しさを、それこそ限りなく明かすでしょう」。この言葉は、効率優先の現代社会に生きる私たちへの警鐘とも言える。
虫展は、小さな生き物たちの驚くべき多様性を通じて、人間のものの見方や感じ方を問い直す貴重な機会を提供している。見逃してしまいがちな日常の中の美しさに、改めて目を向けてみてはいかがだろうか。



