動物園の「触れ合い体験」が相次ぎ終了 動物福祉の尊重が背景に
横浜市のよこはま動物園ズーラシアと愛知県豊橋市の豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)が今月、モルモットとの触れ合い体験を相次いで終了させた。両園とも「近年の酷暑の影響」を理由に挙げているが、背景には動物の身体的・精神的状態を重視する「動物福祉」の考え方が広がったことがある。肌寒い日もある時期になぜ今なのか、その理由を探ると、動物園の役割そのものが転換期を迎えている現状が浮かび上がる。
モルモットの触れ合い体験が「サ終」 動物への配慮が優先
ズーラシアでは3月15日、のんほいパークでは18日にそれぞれモルモットとの触れ合い体験を終了した。ズーラシアの有馬一事業推進係長は「人間のためのサービス面を中心とした時代から変わり、動物に負担をかけないように配慮する考えが強くなってきた」と説明する。同園では馬の給餌や乗馬体験は継続するが、小動物のモルモットは比較的体力がないことも考慮された。モルモットは運営団体である公益財団法人「横浜市緑の協会」が他の動物園に移送した。
有馬氏は「触れ合いは確かに愛着がわき、距離が縮まる」とその教育的価値を認めつつも、「動物園の目標は生物多様性の保全。入り口として、人が見どころや野生での生活を伝えるなどして『動物ってすごい』『不思議』と思ってもらえるような工夫をしていければ」と新たな方向性を示した。
教育効果の大きさと動物福祉の狭間で
一方、のんほいパークでは体験場所が屋外だったために涼しさを確保できないと判断し、ゴールデンウイークでも暑い日があることを見越して早期に終了を決めた。同園の木谷良平獣医師は「動物を理解するための触れ合いの教育効果は大きい。やめて終わりだけでは、動物との接点がない子たちも出てくるのではないか。どうすべきか考えたい」と複雑な思いを語る。
動物福祉の理念を普及啓発する公益社団法人「日本動物福祉協会」の町屋奈獣医師は「人と慣れていない野生動物にとって接触はストレスが大きい。触れ合いはやめるべきだ」と指摘する。その一方で、「モルモットなどの家畜化された動物では人との接触に慣れている個体もいる。飼育員の見守りや休憩時間の確保などの配慮が必要だが、触れ合い体験は完全にはなくならないのでは」と見解を示す。
動物園の役割変化 「娯楽施設」から「研究機関」へ
動物本来の行動を見せる「行動展示」で知られる旭山動物園元園長の小菅正夫氏は「家畜に限り、動物の体温やにおい、反応などを知るために触れ合いは重要だ」と述べる。ただし、「動物福祉のため対応することは世界の動物園の流れだ。嫌がる個体は逃げられる環境を整え、科学的なストレスチェックをするといった配慮は最低基準になっていくだろう」と付け加えた。
野生動物に関しては触れ合いを明確に否定し、「人間と一定の距離を保つべき生物だ。そのことを動物園の展示方法から意識づけるべきだ」と強調する。小菅氏は動物園のあり方について、「単なる娯楽施設から生態系保全に資する専門機関に変わっていくべきだ」と提言。種の保存のための繁殖研究を進める必要性も訴えた。
行政の監視強化と市民の意識向上が鍵
日本動物園水族館協会(JAZA)に加盟する動物園では動物福祉の面での環境改善が比較的進んでいるが、非加盟の園ではライオンへの餌やりなど不適切と指摘される事例もみられるという。町屋氏は、環境省が動物取扱業者における犬猫以外の哺乳類の管理基準の指定を検討していることに触れ、「適切な飼育環境になっているか行政がしっかり監視と指導をする必要がある」と語った。
欧州では、動物福祉への配慮がない動物園を利用しない市民運動もあるとし、小菅氏は「日本でも市民が『この飼い方でいいのか』と声を上げてほしい。それが動物園のレベルを高める助けになる」と市民の役割の重要性を説いた。動物園の未来は、動物福祉の尊重と教育効果のバランスをどう取るか、そして行政と市民の協力如何にかかっていると言えそうだ。



