北緯33度34分36秒、東経135度56分12秒。海図の基準点であるこの座標に、和歌山県那智勝浦町の海上保安庁下里水路観測所がある。ここから放たれたレーザーが人工衛星の鏡に反射して戻るまでの時間を測定することで、日本の位置を40年以上にわたり確認し続けてきた。しかし、この観測は今年末で終了し、観測所も来年3月末には閉鎖される。
観測の終焉
「観測開始します」。5月上旬の午後、時折日が差すものの空は厚い雲に覆われていた。機材が並ぶ屋内の観測室で職員たちはモニターを見つめ、衛星からの反応を追っていた。観測所は1954年に設置され、「人工衛星レーザー測距(SLR)観測」は1982年から始まった。
観測は米航空宇宙局(NASA)などから得た人工衛星の軌道情報をもとに、通過時刻を割り出し、昼夜を問わず実施される。上空を通る衛星は直径数十センチから数メートルで、高度数百キロから2万キロの軌道を周回する。通過時間は短いもので約4分、長いと1時間近くに及ぶ。好天時には1日50~60回の観測が行われる。
コンピューターの計算に基づく精密な観測
コンピューターの計算を基に、レーザー照射のタイミングを正確に合わせる。観測データは日本の位置の基準として、地図作成や測量、さらには地震研究などにも活用されてきた。しかし、近年はGPSなど他の測位技術が発展し、SLR観測の役割は縮小。また、老朽化した設備の維持が難しくなったことも終了の理由だ。
下里水路観測所の閉鎖により、日本のSLR観測は歴史に幕を下ろす。職員たちは最後の観測に向け、日々の業務に励んでいる。



