東京電力福島第一原発事故で帰還困難区域に指定された福島県浪江町津島地区の住民が、国と東電を相手に地域の原状回復などを求めた「津島訴訟」で、原告団は5月31日、福島県二本松市で総会を開き、仙台高裁に和解案を提出する方針を承認した。10月16日に予定されている控訴審判決を前に、原告側が先行して和解案を示す異例の対応に踏み切った。
和解案の柱は年間被曝量1ミリシーベルト以下
和解案の柱は、国の社会的責任のもとで津島地区を除染し、年間の被曝量を1ミリシーベルト以下に引き下げることだ。原告団は6月中に仙台高裁や国、東電に提出する予定。600人超の原告を抱える本訴訟は、3月9日に仙台高裁(石垣陽介裁判長)で結審しており、高裁は原告・被告双方に和解を勧告したものの、具体的な内容は示されなかった。このため原告団が自主的に提案することにしたという。
原告団長「長期化に耐えられない」
総会での和解案に関するやり取りは非公開とされたが、終了後に記者会見した原告団の今野秀則団長と大塚正之弁護士によると、承認された和解案は以下の内容を含む。
- 原発事故後に国が目標に掲げた「年1ミリシーベルト以下の被曝量」を除染によって実現する。
- 除染や復興のため、住民の意見を聞く場を国が設置する。
今野団長は「原状回復の実現には和解という形で臨むのが最適だ」と述べた。その上で「総会では、裁判の長期化に耐えられないという意見が非常に多かった」と説明。東電と争い続けると損害賠償金を受け取れないという原告の苦しい立場にも言及した。
国の責任は最高裁が否定も、社会的責任を強調
原発事故に対する国の法的責任は、2022年に最高裁が否定している。しかし原告側は、原発事故の除染に関する特別措置法に「国の社会的責任」が明記されていることを強調し、国が和解に応じるよう求める考えだ。
帰還困難区域の除染は、かつて集落だった「特定復興再生拠点」か、帰還の意思を示した「特定帰還居住区域」に限定されており、それ以外は放置されている。津島地区は除染対象外の山林が多く、放射線量が高い場所が数多く残っている。
津島訴訟の経緯
- 2011年3月:東京電力福島第一原発事故が発生。
- 2013年4月:浪江町内の避難指示が放射線量ごとに再編。津島地区は最も高い「帰還困難区域」に指定。
- 2015年9月:住民が福島地裁郡山支部に提訴。
- 2021年7月:同支部が国と東電の責任を認め、原告634人に計約10億4千万円の支払いを命令。原状回復の訴えは退ける。
- 2022年6月:四つの原発訴訟で最高裁が国の責任を否定。
- 2023年3月:津島地区の中心部を「特定復興再生拠点」として避難指示を解除。面積は地区全体の1.6%。
- 2026年3月:津島訴訟の控訴審が仙台高裁で結審。



