夜勤明けの男性に飛びかかったクマ 福島で4人襲い、記者の目の前に
2026年6月2日 20時10分 岡本進 荒川公治 波多野陽
JR福島駅から西に約3キロの市街地で2日早朝、クマに襲われ20~80代の4人がけがをした。うち1人は顔の骨が折れる重傷を負った。クマはそのまま事業所にとどまり、警戒のため周辺道路は通行止めに。住民には屋内避難が呼びかけられた。
「まだ撃てないの?」その直後に
現場を取材中、車内に退避していた記者の目の前にもクマが現れた。クマは午前7時ごろ、板金などを製造するOKIシンフォテックの本社・工場敷地内に入り込み、建物の屋上などで目撃されていた。記者は駆除などの動きに備え、隣接する施設の駐車場の車内にいた。
午後0時半ごろ、工場敷地内で福島県警や福島市などの関係者が話し始めた。「中庭に出た。まだ撃てないの?」「行ってくる」との言葉を残し関係者たちが敷地に散った。その直後、記者の目の前の通路を黒い塊が弾んできた。クマだ!記者の車から、路地と簡素なフェンスを隔てて15メートルほど先まで走ってきた。関係者の車数台が追跡。クマは進路を塞がれ、何度も向きを変えて暴れた。「フェンスを越えるぞ!」の大声に記者は身の危険を感じ、車の窓を閉めて時が過ぎるのを待った。やがてクマが敷地内にとどまっているのが分かり、緊張は緩んでいった。
工場で人を追いかけた後、線路越えたか
クマの最初の襲撃は午前6時半ごろ。鋳造メーカー福島製鋼の本社・工場に現れた。前夜も付近でクマが目撃されていたが、同一かは不明だ。福島製鋼でクマは従業員を追いかけ、20代と60代の男性2人がけがを負った。クマは北に向かい、山形新幹線などの線路を越えたとみられる。線路北側の住宅で80代女性にもけがを負わせ、付近のOKIシンフォテックに侵入。ここでも60代男性にけがを負わせた。
福島駅に近い住宅地で
一帯はJR福島駅から西へ約3キロの住宅地。人身被害を受けてパトカーが絶えず巡回し、学校も休校に。だが、やむを得ず外出する人もいた。福島製鋼付近に住む70代女性は、自宅から数百メートル離れたコンビニまで買い物に来ていた。「どうしても今日、パンを買わなければならなかった。おっかなびっくりで歩いてきた。早くクマを捕まえるか、追い払うかしてほしい」と話した。
工場内でのクマと警察などとのにらみ合いは午後5時時点でも続いている。市は緊急銃猟を決めたが、実施には至っていない。
クマが出没したエリア
クマが住民らを襲ったのはJR奥羽線笹木野駅の周辺だ。福島市消防本部などによると、クマはまず駅南側の福島製鋼本社・工場で20代と60代の男性従業員2人を襲った後、線路を越えて駅北側に移動。住宅街で80代女性の脇腹などに入院と治療が必要なけがを負わせ、その後OKIシンフォテックの事業所に入り込んだ。その際、警備員の船山典広さん(66)=福島市泉=が襲われ、顔の骨が折れる重傷を負った。クマはそのまま施設内に長時間とどまった。
福島製鋼が正門近くに設置している監視カメラの映像によると、夜勤を終えて帰宅しようとした男性従業員がクマに襲われたのは午前6時25分ごろ。歩いて会社を出ようとしたところ、正面から突然出てきたクマと遭遇した。男性は最初ゆっくり後ろを向いて距離を取ろうとしたが、クマが走り出し向かってきた。男性は近くの立ち木の周りを走りながら逃げるも、クマも追走。1周したところでクマは男性に追いつき背中に飛びかかり、両腕で男性の体を挟むようにして地面に倒した。遭遇から倒されるまで約10秒だった。クマはその後事務棟に突進し、1分ほどして再び走り出てきた。福島製鋼によると、事務棟正面のガラス張り自動ドアがクマの衝突でガラスが割れて粉々になったという。その後出勤してきた男性従業員もクマに襲われた。2人とも市内の病院に救急車で運ばれたが、いずれも軽傷で処置を受け帰宅した。
「ぞっとした」学校は臨時休校に
OKIシンフォテックのそばの市立野田小学校の久能潤一教頭は午前6時半ごろ、車で出勤途中にクマが歩いているのを目撃した。体長1メートル以上のクマ1頭が奥羽線の線路を横切っていた。笹木野駅近くでは5月28日午後11時45分ごろと6月1日午後10時50分ごろにもそれぞれ1頭のクマが目撃された。学校は学区内をクマが歩いているのは極めて危険と判断し、臨時休校にしオンライン授業に切り替えた。「子どもたちの登校の時間だったらと思うと、ぞっとした」と久能さんは話した。
けが人が相次いだ事態を受け、福島市は初めて緊急銃猟の実施を決めた。鳥獣被害対策専門職員(ガバメントハンター)2人を含む対策チーム10人が現場へ向かった。建物内に燃える物や危険物もあるため、ライフルではなく麻酔銃を使うことになった。だがクマが動き回るため発砲できず、夜になっても膠着状態が続いている。



