「もう限界」増える外国人妊産婦のSOS 疲弊する支援現場の実態
増える外国人妊産婦のSOS 疲弊する支援現場

連載:ドキュメント 現場から「もう限界」増える外国人妊産婦らのSOS 疲弊し細る支援の現場

2026年5月17日 14時00分

平山亜理

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行政の支援が届きにくい難民や移民の妊産婦たちを支えてきた民間の団体やボランティアが、パンク寸前になっている。命をつなぐ現場で何が起きているのか。

相談はひっきりなし トイレにも携帯電話持ち込み対応

「妊婦が路上にあふれ出てしまうかもしれない。もう限界です」

日本に暮らす外国人妊産婦らを支援するNPO法人「マザーズ・ツリー・ジャパン」(東京)の坪野谷知美事務局長(53)は、切迫した声でそう話す。

毎日、LINEでひっきりなしに相談がある。緊急の電話は昼夜を問わず鳴り、入浴やトイレに行く際にも携帯電話を手放せない。病院に泊まり込むこともある。

相談者は難民申請中の人や在留資格のない人も多く、国籍も様々だ。2022年秋にコロナ禍の水際対策が緩和されてから難民申請者が急増し、妊婦からの相談も増えたという。

スタッフは約90人。保健師や助産師、医師や通訳などの専門職や、学生などの支援者だ。

1月中旬の取材中、フランス語通訳を担う武石晶子さん(47)の携帯電話が鳴った。産気づいたアフリカ出身の女性からだ。

「タクシーに乗って。ゆっくり深呼吸して」。落ち着くよう呼吸を促し、事前に手配していた陣痛タクシーでかかりつけの病院へ向かわせた。

24時間365日、出産に付き添う

昨年11月初旬、午前3時に救急隊員から電話があった。別のアフリカ出身の女性が出産前に胎盤がはがれてしまう「常位胎盤早期剝離(はくり)」のために、緊急手術に付き添うことになった。朝6時に病院にかけつけた後、血だらけになった女性の部屋を掃除し、必要な荷物を病院に届けた。その2日前にも、別の女性の出産のサポートをしたばかりだった。

在留資格がある外国人の出産の付き添いは数回で済むが、難民申請中の妊婦の場合は10回以上に及ぶこともある。

本人もパートナー男性も日本語が話せないことが多く、病院での処置や医療制度の説明も必要なためだ。また、入国の経緯など、住民票がない状態で受け入れる自治体の聞き取り調査にも立ち会う。

マザーズ・ツリー・ジャパンは民間の助成金やクラウドファンディングなどで運営する。事務局の運営費はまかなえないため、坪野谷さんは無給で活動することが多い。精神的負担や忙しさから燃え尽きそうになるという。

難民認定申請をする人に、公的支援「保護費」の制度はあるが、支給開始までに半年以上かかったり、妊娠中で申請しても支給されなかったりした人もいるという。

支給される人は、年間の難民申請者の1割未満にとどまり、大半の人は民間支援団体や同胞のコミュニティーなどに頼るしかないのが現状だ。保護費を受けられたとしても金額は生活するのに十分でなく、住まいの敷金や礼金も出ない。

坪野谷さんは「難民認定を求める人を受け入れたなら、泊まる場所や食料を提供し、最低限の医療を受けられるよう国が保障するべきだ。行政が担うべき責任を民間が負っている」と話す。

外国人妊婦が急増する背景

妊婦が増えている背景には、誤った情報を信じて来日する人がいることもある。SNS上で「日本に行けば無料で出産できる」「日本で産めば在留資格が得られる」などの偽情報が拡散しているという。

また、行き場のない難民申請者の女性が弱い立場につけ込まれ、住む場所と引き換えに男性から性的な関係を強要され、妊娠してしまうこともあるという。

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坪野谷さんたちの支援を受ける女性の中には、「日本なら守ってもらえる」と信じて来日したケースも少なくない。しかし、現実は厳しく、支援体制は脆弱だ。この記事は有料記事です。残り1187文字。