詐欺罪に問われ、逆転無罪が確定した名古屋市の男性(63)が、一審の公判担当検事が自身に有利な証拠を隠蔽して有罪論告を行ったのは違法であるとして、国に550万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が29日、名古屋地裁で言い渡された。笹本哲朗裁判長は、国に対し110万円の支払いを命じた。
検事の違法行為を認定
判決は、検事が一審の途中で起訴内容と矛盾する証拠の存在を知りながら、「漫然と裁判を続けた」と判断し、その訴訟活動に違法性があると認めた。男性は2019年、会社経営者から融資名目で3000万円を詐取したとして起訴され、一審の名古屋地裁で有罪判決を受けた。しかし、被害者とされた経営者と仲介役の元弁護士がLINEで起訴内容と矛盾するやり取りをしていたことが控訴審で発覚。審理が差し戻された名古屋地裁は2023年、両者の証言を信用できないとして男性を無罪とした。
LINE記録の隠蔽が問題に
判決によると、一審の公判担当検事は初公判後、経営者と元弁護士のLINE記録を、両名を捜査していた名古屋地検特捜部から入手していた。判決は、矛盾を認識した以上、訴因変更や他の証拠による立証を検討すべきだったと指摘。そのまま裁判を進め、論告に至ったのは「検察官の判断の幅の個人差を考慮しても、なお行き過ぎで合理性を肯定できない」と断じた。
名古屋地検の野村安秀次席検事は「判決内容を精査中。今後の対応は関係機関と協議するなどして検討したい」とコメントした。
専門家「画期的な判決」
元裁判官で法政大法科大学院教授の水野智幸氏(刑事法)は「検察官の訴訟活動を違法とした判例はほとんどなく、画期的だ。公益の代表者である検察官は、被告に有利な証拠や事情にも配慮する責任や義務を負うという点が近年の司法で重視されており、その表れだ」と評価。「『証拠隠し』を明確に指摘する判決ではないが、無罪方向の証拠を開示しないまま訴訟活動を続けた点を問題視したもので、実質的には証拠隠しの違法性も内包した内容といえる」と述べた。
男性は判決後の記者会見で「検察の対応を明確に違法と認定した点は良かった」と話した。その上で「本来なら起訴されずに済んだはずだが、仮に起訴したとしても、検察にはLINEの証拠など状況が分かった時点で引き返す機会が何度もあったはずだ」と問題視した。起訴から無罪確定まで4年を要した男性は、訴訟で国側が一審検事の対応は違法ではないと主張したことに対し「無罪が確定した自分をなお犯人視するような態度で怒りを覚えた」と憤りをあらわにした。
検察改革への訴え
男性は検察に対し「冤罪を生んだ根本的原因を考えてほしい」と求め、刑事裁判の証拠開示のあり方についても「捜査機関が不利な証拠を恣意的に操れてしまう現状の仕組みを変える必要がある」と訴えた。男性は2023年、担当検事を虚偽公文書作成などの容疑で刑事告訴したが、名古屋地検は不起訴とした。2025年7月、名古屋第2検察審査会は「不起訴相当」と議決する一方、「証拠不開示の経緯は詳しく検証されるべきだ」と指摘。これを受け男性は地検に経緯の検証を申し入れたが、これまでに返答はないという。
(安藤孝憲)



