ラグビー中の事故で認知機能が低下する「高次脳機能障害」になりながら、画家として活躍する青年が愛知県豊橋市にいる。生死をさまよう経験をしたYuDaiさん(26)がモチーフに描くのは、生命のエネルギーを秘めた動物たち。外見からは健常者との違いが分かりにくく、障害への理解の得られにくさも感じるが、「絵の世界ではありのままの自分でいられる」と画業に突き進む。
動物への強い思い
ライオン、トラ、オオカミ…。豊橋市二川町の商家「駒屋」で17日まで開かれている個展には、動物を色鮮やかに描いた作品が並ぶ。アクリル絵の具に補助剤を混ぜ、ペインティングナイフで厚く盛る技法を使う。描き始めたころからのこだわりで目の部分だけは筆を使い、動物の力強くもやさしいイメージを表現している。
事故と障害
YuDaiさんが事故に遭ったのは、ラグビー部に所属していた高校1年の時だ。試合中に相手にタックルで倒され、頭部を強打。意識をなくし、病院に搬送された。命の危険もあった中で奇跡的に回復したものの、すぐに違和感に気付いた。「頭の中がぐちゃぐちゃになっている」。着替えたり椅子に座ったり、当たり前にできていたことができなくなった。診断名は高次脳機能障害だった。
部活への復帰を考えていたYuDaiさんに医師が告げた言葉は、「一生スポーツはできない」。転ぶだけで命の危険があるからだ。授業中に文字を読むことや集中することも難しくなり、高校を中退。自宅に引きこもり、一日中ぼんやり過ごした日々を「先が見えず苦しかった」と振り返る。
絵画との出会い
そんな絶望の中で突然、「絵が描きたい」という気持ちがわき上がってきた。これまで全く美術には興味がなく、「自分でも不思議だった。事故で頭を打った影響なのかな」と笑う。画題は決まっていた。死を強く意識する経験をしたからか、リハビリや気分転換でよく訪れた豊橋市の豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)の動物たちが懸命に生きようとする姿を「描かずにはいられない」と思った。絵を描くことを中心に生活のリズムが整い始め、自宅の外に出られるようになった。
作家としての歩み
2021年に名古屋市であった公募展「いい芽ふくら芽」での入選を機に美術関係者らとの交流が生まれ、個展やグループ展を開くように。現在は同市や浜松市などを中心に月2~3回のペースで作品を発表。名古屋・栄の松坂屋名古屋店8階ギャラリーで26日まで開催中の絵画展「ANIMAL?×ANIMAL!」にも出展している。
「外見からは分からない障害なので『怠けている』と思われ苦しかったこともある」と打ち明けるYuDaiさん。「一人の作家として評価してもらえ、前を向くための活力になっている」。絵画の世界で輝きを増している。
障害者の芸術活動支援
障害者の芸術活動はフランス語で「生の芸術」を意味するアール・ブリュットと呼ばれる。愛知県は2014年度から「あいちアール・ブリュット展」を開催するなど障害がある芸術家の支援に積極的で、今秋の愛知・名古屋アジアパラ大会の広報活動でもアール・ブリュット作品を活用する。
文化庁が3月に発表した「障害者の文化芸術活動の実施状況調査」で、対象の障害者ら約2千人のうち2024年に創作活動をした人は15・2%。新型コロナウイルス禍で行われた20年の前回調査(11・2%)から4ポイント増えた。「創作活動をした」と答えた人のうち22・3%が、地域の文化団体や福祉施設などでの発表の場が増えたことから「前回調査の時期よりも芸術活動がしやすくなっている」と答えた。同庁は「コロナ禍で停滞していた障害者の芸術活動が回復しつつある」と分析している。



