「信頼はゼロではない。マイナス100ぐらいだ」――中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働に向けた審査を巡る不正が今年1月5日に発覚し、その4日後に開かれた同市議会の原子力対策特別委員会で、委員長の河原﨑惠士市議は中電への強烈な不信感をこう表現した。そして4カ月が過ぎた今の心境を「何も分からず進捗がない。信頼度はそんなに変わっていない」と明かす。
浜岡原発は完全停止から15年を迎え、不正により大きな転機に立たされた。本連載では、現在地やエネルギーを巡る動向を3回に分けて探る。第1回は、安全最優先の誓いが破られたことで広がる地元の疑念に焦点を当てる。
1号機が営業運転を始めてから今年で半世紀。東京電力福島第1原発のような事故がひとたび起きれば、住民は故郷を追われかねない。そんなリスクと隣り合わせの中、中電は5号機まで増設し、運転できたのも地元と深い結び付きがあってこそだった。「安全を最優先に」。その誓いを自ら破ったことに、地元の不信感が静まる兆しはない。
中電が3月末に原子力規制委員会などに提出した調査報告書によると、社内で2018年以降に複数回、不正を問題視する声があったという。しかし、自浄作用は働かず、規制委への公益通報をきっかけにようやく発覚した。
浜岡原発のデータ不正問題は、中部電力が恣意的にデータを選び、原発の耐震設計の根幹となる「基準地震動」(最大級の揺れの想定)を決めたとされるもの。中電は一つの断層につき20通りの揺れのパターンから平均に近い地震動を選んで策定したと説明し、原子力規制委員会は「おおむね妥当」としたが、実際は数千通りの結果から一つ選び、つじつまが合うように残り19通りを寄せ集めるなどしていたという。恣意的なデータの選択は遅くとも2012年ごろ始まり、18年以降、社内で繰り返し問題視する指摘があったが、昨年2月に外部からの情報提供で問題を把握した規制委の指摘を受け、今年1月5日、不正を明らかにした。
防災士として活動する同市の落合美恵子さん(68)は、福島での事故の翌年には都合の良いデータの選別が始まっていたことに「あきれて物が言えない。何も信じられなくなる」と顔をしかめた。南海トラフ巨大地震の想定震源域にある浜岡原発に不安は尽きず、中電が造った防潮堤に「基礎が地震に耐えられるのだろうか」と疑いの目を向ける。
疑念は、中電の過去の説明にも広がる。09年8月の駿河湾地震では、最も新しい5号機が1~4号機と比べて突出して強い揺れに見舞われた。中電は、地下に周囲より砂岩の比率が高い「低速度層」が分布しており揺れを増幅させた、とする調査結果を公表した。しかし、落合さんは「建てた時に分かっていなかったのなら、地盤の調査がいいかげんだったことになる。今回の不正と同じで、分かっていたけど都合が悪いから隠していた、と怪しんでしまう」と首をかしげた。中電に原発を保有する資格がある、と思えない状態だ。
中電は「全社一丸となって信頼を取り戻す」(豊田哲也原子力本部長)と強調するが、不正の全容はいまだに不明。16~24年の8年間市長を務め、規制委に審査迅速化を求めるなど再稼働に奔走した栁澤重夫さん(79)は「外部の目が入り、二重三重にチェックができる組織をつくらないかん。信頼回復は対応次第だ」と厳しい表情を見せた。
政府が津波対策の完了まで浜岡原発の運転を停止するよう要請したのは11年5月。当時は「そのうち動くだろう」と、受け止められた。規制委の審査はなかなか進まなかったが、建屋や設備などの安全性を確かめる「プラント審査」が24年12月に再開。再稼働を望む住民の間で数年以内の再稼働への期待が高まった。しかし、不正発覚により、再稼働に向けた動きは「白紙」となり、当たり前だった共存共栄は根底から揺らいだ。中電が浜岡原発の維持や事故対策にかけた費用は膨らみ続けている。



