刑事裁判の再審制度見直しを巡る法務省の刑事訴訟法改正案は、自民党内の反発で修正を繰り返し、着地点が見えない。議論は再審開始決定に対する検察官の不服申し立ての是非に集中しているが、決定前の請求審段階の規定にも課題が多い。再審事件の当事者や支援者の声を紹介する。
主婦の実験が突破口に
静岡県一家4人強盗殺人事件で死刑が確定し、2024年に無罪が確定した袴田巌さん(90)の再審請求審では、支援者の主婦・藤原よし江さん(66)の実験が決定的な役割を果たした。
藤原さんは、検察が証拠として提出した「5点の衣類」のカラー写真を見て違和感を覚えた。1年2カ月もみそ漬けにされたはずの衣類に付いた血痕が鮮やかな赤色を保っていたからだ。「こんなに血が赤く、シャツの色も白いはずがない」と直感した藤原さんは、自宅の台所で自らの血液を使った実験を開始した。
再審請求審の最終盤、弁護団は最高裁から差し戻された審理で、血液がみそに漬かった際の変色メカニズムの解明に苦慮していた。法医学や醸造の専門家から明確な見解が得られず、行き詰まっていたのだ。藤原さんは、正解が分からなくても行動しようと、自分の血液を付けた布を水やみそ、しょうゆ、酢、豆乳、サラダ油など10種類ほどの身近な液体に数日間漬けた。すると、酢やみそなど酸性・弱酸性の液体に漬けた布の血が素早く黒くなる傾向が見られた。
この気付きを基に弁護団は酸性の影響に着目し、専門家に実験を依頼。その結果、血液がみそに漬かると、弱酸性と塩分の影響で赤血球の細胞膜が破壊され、赤みの成分が酸化するなどして黒くなるメカニズムが判明し、「1年2カ月も赤みが残ることはない」との結論が導かれた。弁護団の小川秀世弁護士は「藤原さんの実験がなければ、どうなっていたか分からない。支援者には証拠を見てもらい、アイデアや助けをもらった」と振り返る。
新規定が支援者の活動を阻害
しかし、法務省が検討する法改正案は、開示された証拠を支援者やメディアなど第三者に示すことを「目的外使用」とし、罰則付きで禁止する規定を新たに盛り込んでいる。通常の刑事裁判には同様の禁止規定があり、再審請求審もそれにならう形だ。プライバシーへの配慮などが理由とされる。
自民党の党内審査では異論が出たが、法務省の修正案は禁止規定をそのまま維持した。藤原さんは「証拠を見られなければ冤罪かどうか分からず、協力できない。支援者が減ってしまうのでは」と懸念する。
袴田さんの姉・ひで子さん(93)も4月23日の記者会見で「目的外使用だなんて制限すれば、検察の都合の良いようになる」と批判。小川弁護士は、プライバシー配慮は証拠の中身によって個別に判断すればよく、一律制限は不要とした上で、「捜査の問題を問うときにも証拠を見せられないなんて絶対に許されない。重大な問題を秘めた規定だ」と訴えた。



