厳島の「不消霊火堂」全焼など寺社・酒蔵火災で「ムスリム放火」デマ拡散、警察は否定
厳島不消霊火堂火災で「ムスリム放火」デマ、警察否定

各地の寺社や酒蔵で発生した火災を巡り、SNS上で「イスラム教徒(ムスリム)による放火」との根拠のないデマが拡散している。読売新聞の取材に対し、回答を得られた全ての警察と消防は「外国人が火を付けた事実や情報はない」と否定。根拠不明の刺激的なデマが人々の不安をあおる構図が浮き彫りとなった。

数百万回表示された差別的な投稿

京都府亀岡市の千手寺で6月1日、境内の住居「庫裏」が燃えた火災について、X(旧ツイッター)では直後から根拠不明の投稿が相次ぎ、中には67万回表示されたものもあった。府警亀岡署によると、庫裏に住む男性が近くで雑草を燃やしていた。同署幹部は「現時点では、外国人や第三者による放火を疑う情報はない」と回答した。

Xでは1月以降、千手寺を含め、須賀神社(北九州市)や蓮照寺(富山市)など少なくとも10件の寺社火災で同様の情報が拡散した。このうち5月20日、広島県・厳島(宮島)の大聖院にある「不消(きえずの)霊火堂(れいかどう)」が全焼した火災では、「神社仏閣の火事の多さ異常じゃない?何か匂わない?」との投稿が直後にあり、3万7000件リポストされ、538万回表示された。返信欄には「ムスリムは見ただけで通報」「他の宗教施設を破壊するのがイスラム。日本に入れてはならない」などの差別的コメントが並んだ。

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警察・消防は放火を否定

読売新聞が各地の警察や消防に取材したところ、いずれも明確な原因は公表されていないものの、10件中8件で「少なくとも外国人による放火はない」などと否定。三重県と新潟市の神社で起きた2件は「調査中」などとして回答を得られなかった。

酒蔵火災でもデマが拡散。6月1日に福島県喜多方市の老舗酒造「笹正宗酒造」の酒蔵などが全焼した火災では、翌2日、「イスラム教徒はアルコールの摂取が禁止されている」と併記し、イスラム教徒の関与を示唆する投稿があり、2万件リポスト、375万回表示された。福島県警の地元署幹部は「放火につながる情報は確認しておらず、特定の外国人や宗教を疑っている事実もない」と否定した。

火災件数は減少傾向

「近年、寺社の火災が不自然に増えている」との投稿も拡散しているが、実際には減少傾向にある。総務省消防庁の統計によると、「神社・寺院等」の火災は2016年の83件から2025年には37件に減少。放火(疑い含む)の件数も16年27件から25年3件に減っている。火災調査会社「ベルアソシエィツ」(茨城)の鈴木弘昭代表は「コンセントのほこりによるショートなど様々な出火原因が考えられ、火の気がないからといって放火とは限らない」と指摘する。

デマ拡散の背景

火災とイスラム教徒を結びつける投稿は、理由は不明だが5月上旬から急増し、連鎖的に広がった。デマを拡散した複数のアカウントは今年2月の衆院選や昨年7月の参院選でも外国人に関するデマを投稿していた。成蹊大学の伊藤昌亮教授(メディア社会学)は「外国人が日本の伝統や風土を破壊しているという構図は不安や怒りをかき立てやすい。土葬やモスク建設を巡るネット上の議論が、イスラム教徒をデマの標的にしている」と拡散の背景を分析している。

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