カンボジア北西部ポイペトを拠点とした特殊詐欺事件で、タイ警察に拘束された日本人の男が、ポイペトに加えて別の海外の特殊詐欺拠点の管理にも関与していた可能性が高いことが、捜査関係者への取材で明らかになった。男は近日中に日本へ強制送還され、愛知県警などの合同捜査本部が組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)の疑いで逮捕する方針を固めた。
佐々木容疑者の実態
捜査関係者によると、男は佐々木裕介容疑者(38)で、昨年合同捜査本部が摘発した日本人の「かけ子」グループのオーナーだったとみられる。詐欺組織の一員として警察官を装い電話をかけ、日本の被害者から金を騙し取ったとして、逮捕状が発行されていた。警察庁を通じた連絡を受けたタイ当局が今月5日、身柄を拘束した。
佐々木容疑者は中国やマレーシア、ベトナムに渡航しながら、家族とタイの首都バンコクの高級マンションに潜伏。ポイペトの詐欺拠点にいる中華系幹部に遠隔で指示を出していたとされる。海外の詐欺拠点は通常、中華系幹部が管理することが多いため、日本人が上位の立場に立つのは異例だ。
「A先生」と呼ばれた存在
佐々木容疑者はポイペトの詐欺拠点にいた日本人のかけ子たちの間で「A先生」と呼ばれていた。オーナーでありながら拠点に姿を見せず、一部のかけ子だけが連絡できる謎めいた存在だった。昨年3月ごろ、ポイペトに二つ目の日本人グループを立ち上げたとみられる。
拠点にいたかけ子の男は本紙の取材に対し、「グループは日本人の影響力が強いためか、体罰もなく、ゆるい人間関係だった」と証言。大半のかけ子はA先生の名前も顔も知らず、連絡を取れたのは詐欺の成績が良い一部だけだった。報酬に関する相談はその人物を通す必要があり、報酬もA先生側からアプリを通じて振り込まれる仕組みだった。
勧誘の手口
捜査関係者によると、リクルーター役の男はかけ子に対し、高級マンションとみられる広い一室や大量の日本円の札束の写真を見せ、「A先生はこんなに金を持っている。おまえも頑張れば手に入るんじゃないか」と勧誘していた。
愛知県警幹部は佐々木容疑者を「無名の大物」と称した。かけ子の男は取材に「世間は中国人が組織の上だと思っているが、オーナーは頭の良い日本人だった」と証言したが、詳しい素性を尋ねると「さすがに話せない。命を取られるから」と口をつぐんだ。
今後の展開
佐々木容疑者は現在、タイの入管施設に収容されている。詐欺に使ったとみられる日本の警察官の制服に似た服も所持していたという。ポイペトの拠点を巡っては、合同捜査本部が昨年8月に現地でかけ子をしていた日本人の男女29人を逮捕したほか、中国人幹部やかけ子のリクルーター役、マネーロンダリング役も逮捕している。



