ウクライナ人名乗る男との「偶然」の出会いから始まったスパイ疑惑
在日ロシア通商代表部の敷地内に掲げられた国旗が揺れる東京都港区高輪。この地を舞台に、首都圏の工作機械メーカーの元社員が、ロシア政府関係者と疑われる人物に営業秘密を伝えた疑いが浮上している。警視庁公安部は、不正競争防止法違反(営業秘密の開示)容疑で捜査を進め、2026年1月20日、30代の元社員の捜査結果を検察に送致したと発表した。
「偶然」の出会いと封筒の70万円
事件の発端は、2023年4月ごろにさかのぼる。元社員は、勤務先近くの路上で、外国人の男から突然、道を尋ねられた。男は自らをウクライナ人だと名乗り、元社員が道案内に応じると、お礼をさせてほしいと申し出た。これが、後の一連の接触の始まりとなった。
元社員は当時、工作機械メーカーに勤務しており、男は、同社が扱う技術に関心があると説明。その後、2人はファミリーレストランなどで定期的に会い、仕事に関する意見交換を重ねるようになった。捜査関係者によれば、面会は10回以上に及び、その過程で、男は封筒に入れた70万円を元社員に渡していたという。
営業秘密の開示と捜査の経緯
警視庁公安部の捜査では、元社員が男に、会社の営業秘密に当たる技術情報を開示した疑いが強まっている。工作機械メーカーは、高度な製造技術を有する企業として知られ、その情報は競争上の優位性を保つために極秘扱いとされている。
男の正体については、ロシア政府関係者である可能性が指摘されており、ウクライナ人を名乗ることで接触を図ったとみられる。捜査関係者は、「偶然の出会いを装った巧妙な手口で、信頼関係を築き上げた後、金銭を渡して情報を引き出そうとした」と分析している。
不正競争防止法違反容疑での送致
警視庁は、元社員の行為が不正競争防止法に違反するとして、詳細な捜査を実施。2026年1月20日時点で、証拠を固め、検察に送致するに至った。同法は、営業秘密の不正な開示を禁じており、違反した場合、刑事罰が科せられる可能性がある。
この事件は、国際的なスパイ活動の一端を浮き彫りにするとともに、企業の機密情報管理の重要性を改めて問うものとなった。捜査は継続中で、男の身元や背後関係の解明が急がれている。
事件の背景には、工作機械産業における技術競争の激化が存在する。日本企業は先端技術で世界をリードする一方、外国勢力による情報収集の標的となるリスクも高まっている。今回の事例は、そうした脅威が身近に潜んでいることを示す警告と言えるだろう。



