インドネシアの首都ジャカルタから車で1時間半ほどの工業都市チカラン。労働者が多いこの街で、人材の送り出しを手がける会社を訪ねると、総務部長の肩書を持つミンさん(34)=仮名=が流ちょうな日本語で対応した。インドネシアの会社だが、ミンさんはベトナム人だ。
ベトナム式の施設と手法
サッカー場ほどの広さがある卸売市場を改修した社屋には、男子と女子の寮、日本語を学ぶ教室に加え、建設現場の足場の組み方や食品加工の技術を学べる設備がそろう。「施設も教え方もベトナム式です」と、業界に10年間身を置くミンさんは語る。
会社の本社はベトナムの首都ハノイにある。ベトナムでは人材派遣のほか、五つの日本語学校を運営している。2019年まで年間約千人の技能実習生を日本に送り出していたが、20年ごろから希望者が減り、翌年、市場が拡大するインドネシアに進出した。
グレーゾーンの運営実態
会社を取り仕切るのはミンさんと日本人2人で、いずれも外国人。インドネシアでは、外国人が送り出し機関の代表になることは原則認められていないため、スタッフのインドネシア人を手続き上の社長に置いた。この手法には業界から「グレー」「強引な手法」との声も上がる。ミンさんは「法的には問題ない」と反論しつつ、自分が表に出ることを嫌がり「顔を写真に撮らないで。いろいろと問題になるので」と話した。
人材ビジネスの構造
インドネシアの人材ビジネスにはいくつかのパターンがある。日本語学校の運営は参入が容易な一方で、収入は学生が支払う月5万~8万円の授業料に限られる。渡航を仲介する送り出し機関を運営すれば、さらなる収益を見込めるが、許認可のハードルは高い。国は事業の信頼性や安定性を担保するため、技能実習で約3千万円、特定技能で約5千万円の資本金を求めている。
ミンさんの会社はベトナムで築いた資産を生かして国の許可を得た上で、自前で人材を送り出せないインドネシア国内の日本語学校80校と提携。優秀な学生を毎月数十人受け入れ、研修後に日本に送っている。学生が支払う手数料約30万円に加え、日本側から実習生1人当たり毎月5千円の管理費を受け取っている。
急成長する送り出し事業
経営状況についてミンさんは「なんとか黒字」と苦笑いするが、日本への送り出し事業は本国ベトナムからの人数を抜く勢いで成長している。「ベトナムでは人が集まらないから、本社に届いた日本の求人案件をインドネシアに回すこともある」。インドネシア人スタッフの給料は月10万円ほどで、首都の労働者平均のおよそ2倍だ。入社間もない20代の男性スタッフは「大きくて安定した会社。入れてよかった」と語る。
外国人技能実習機構によると、インドネシアの日本向け送り出し機関は25年末時点で570社あり、20年末の210社から倍以上に増えた。
闇法人の存在
ミンさんの会社のようにベトナム人が経営に関わりながらも許認可を受けて活動する会社がある一方で、政府公認のリストに載っていない「闇法人」もある。そのうちの1社を割り出し、ジャカルタ郊外にある会社を訪ねると、インドネシア人スタッフが「代表はベトナム人。授業料も日本からの金も全部ベトナムに流れている」と明かした。
インドネシアの送り出し機関200社でつくるネットワーク「AP2LN」の日本側の窓口を務める内藤ウスマンさん(48)=浜松市=は昨年1月ごろ、設立間もないベトナム資本の会社から「学生を1人7万円で回してくれないか」と持ちかけられた。送り出す人材を十分に確保できなかった会社が実績づくりを急いだとみられる。
依頼を断った内藤さんは「金目当ての強引な手法は、学生への高額な手数料の請求につながりかねない」と危ぶむ。活況に沸く市場の陰で、外国人労働者を巡って指摘されてきた搾取などの問題がインドネシアでも繰り返される恐れがある。



