「はたらく細胞」VRゲームで小児がん治療の理解を深める
広島大病院(広島市)は、人気漫画「はたらく細胞」に登場するキャラクターと協力してがん細胞と闘う仮想現実(VR)ゲームを開発した。この取り組みは、小児がんを患う子どもたちが自身の病気や体の仕組みを理解し、前向きに治療に臨めるようにすることを目的としている。同病院では効果を検証するとともに、全国の小児がん拠点病院などで無料で利用できる体制を整える方針だ。
ゲームの内容と開発背景
ゲームは「はたらく細胞VR」と名付けられ、360度見渡せるVRゴーグルを装着したプレーヤーが、仮想空間に現れる「白血球」や「赤血球」など細胞を擬人化したキャラクターと協力し、体内で増殖する「がん細胞」を倒す仕組みとなっている。さらに、「赤血球の仕事は何でしょうか?」といった細胞や抗がん剤に関するクイズも出題され、楽しみながら治療について学ぶことができる。
企画を主導したのは、小児外科の佐伯勇・診療准教授(48歳)。つらい治療を経験する小児がん患者の子どもたちに、治療の必要性や意義を分かりやすく伝えたいという思いがきっかけだった。佐伯准教授は、欧米などの病院でVRを使って患者に症状を説明する事例があると聞き、小児がんの子どもたちにも活用できると考えた。
自らもゲーム好きである佐伯准教授は、子どもたちの関心を引くため「はたらく細胞」との連携を考案。2023年に出版元の講談社(東京都)に直談判して許可を得た。開発資金約2000万円は広島大学のホームページなどを通じて寄付を募り、広島市内のゲーム会社が制作を担当した。
小児がんの現状とゲームの意義
広島大病院は、全国に15か所ある小児がん拠点病院の一つ。小児がんは国内で毎年2000人以上が発症し、治癒の指標である5年生存率はがんの種類によって異なるが、6割から9割以上とされる。がん細胞の根絶を目指すため、効果の強い抗がん剤治療を行うことが多いが、幼い子どもたちは説明を受けても十分に理解できず、激しい副作用に耐えているケースが多い。
3月31日には同病院で体験会が開催され、以前に入院していた小学生2人が参加。6歳の時に骨肉腫を患い、抗がん剤治療に取り組んだ小学3年生の男児は「体内に入ったみたいで楽しかった」と笑顔を見せた。母親(34歳)は「入院中、発熱や嘔吐に苦しんでいた息子に、どう声をかけてあげればいいか悩んだこともあった。このようなゲームがあれば、親子で病気のことを話すきっかけにもなると思う」と語った。
専門家からの評価と今後の展望
佐伯准教授は「ゲームを通して、がんと闘う子どもたちの力を引き出せればうれしい」と期待を寄せる。また、緩和ケア医として多くの小児がん患者を担当してきた岡山大病院の片山英樹講師(55歳)は「子どもたちが治療に対して前向きな気持ちを持つことは、きつい副作用だけでなく、後遺症や再発リスクとの向き合い方にも関わってくる。子どもへの説明は難しいが、ゲームを通じて分かりやすく伝わるのであれば、価値がある取り組みだ」と評価した。
広島大病院では、今後もこのVRゲームを活用し、小児がん患者の治療理解と心理的サポートを強化していく計画。全国の医療機関への導入を進め、より多くの子どもたちが楽しく学べる環境を整えたいとしている。



