持続可能な医療制度の構築へ、京都大・今中教授が診療報酬改革と総合診療医育成を提言
持続可能な医療制度構築へ、診療報酬改革と総合診療医育成を提言

持続可能な医療制度の構築に向けた課題と提言

病院の赤字や医師不足など、医療を巡る課題への対策が2026年4月から始まっています。少子高齢化が続くと予想される日本において、持続可能な医療制度を築くにはどうすればよいのでしょうか。医療経済学が専門の京都大学の今中雄一教授(64歳)に、その「処方箋」を聞きました。

診療報酬制度の見直しと病院経営の危機

2026年度の診療報酬が6月に改定され、薬価以外の医師らの人件費などにあてられる「本体」部分が3%超引き上げられます。これは、人件費に加え物価高で経営が悪化している医療機関を救済するための措置です。

今中教授は、現在の診療報酬制度について、医療費の制御だけでなく、各種の施設基準を盛り込むなど、医療の標準化や質の確保に役立っている面もあると評価します。しかし、病院は以前からせいぜい利益率1%あるいは赤字基調にあり、病院の建て替え資金を確保できない状況が続いています。

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バブル期や2000年頃の病床規制強化前の駆け込み増床で整備された多くの病院の建て替え時期が迫る中、これらの病院がなくなっていく恐れが出ています。診療報酬は2年毎の改定ですが、今回の引き上げ決定後も物価などは上昇を続けています。今後は2年を待たずに適時に改定される仕組みが必須であると、今中教授は強調します。

医師偏在と総合診療医の育成の重要性

医師数が都市部に偏る傾向にある「医師偏在」が、医師不足を招いています。他の医療機関が周辺にない地方の病院では、多様な患者の受療ニーズがあり、専門領域に特化した医師だけでは不足が生じます。

外来の7割、入院の半分は、風邪や腹痛など一般的な疾患が占めると言われています。これらの大部分に対応できる医師である「総合診療医」などを育成し、活躍してもらえるようにする施策を加速する必要があります。

総合診療医が各病院に1人か2人いれば効率性は上がり、経営的にも大きな違いが生まれると、今中教授は指摘します。遠隔技術や各種情報技術の活用、他の医療職の機能強化などで、「医師」確保というより「医療」確保に向けて多面的な施策も投入していくべきだと提言します。

病院機能の分化・転換と地域協働の必要性

病院機能の分化・転換や再編統合も進んできていますが、地方において、同様の機能の病院に医療者が分散し、各病院ともに充実した医療体制の維持に苦しむ状況は、まだまだ多く見られます。

急性期医療機能の弱い公立3病院を、一つは救急医療の機能を拡充、他の2病院は回復期・療養期の機能へと再編した地域があります。そこでは地域内の救急患者を受け入れる率が高まり、結果として3病院の経営も大きく改善しました。各地域で医療機関と行政機関などが地域の状況を共有し、協働していくことが不可欠です。

医療制度改革における責任と主導権

社会保障改革で、現役世代の負担を減らすため、医療側にも効率的な医療費の使い方が求められています。医療現場での効率化だけでは医療費問題は解決しません。

各病院が生き残りをかけて診療報酬制度への最適化を図っても、基本は出来高払い制度であり、多くの無駄な医療を生み出しかねません。医療提供体制や医療費の配分のあり方を改革しないと、真の効率性は得られないと、今中教授は警告します。

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また、医療専門職の使命感が弱まると、いくら人員と資金があっても良い医療は提供されなくなります。様々な制度・規制や採算性を重視する市場経済的な圧力に流されず、医療専門職本来の「社会に奉仕する使命」を果たせるよう、医療界が責任と主導権を持って医療制度改革に関与していく必要があると強調しています。

診療報酬と国の対策

診療報酬とは、保険医療機関や薬局が提供した医療サービスの対価として受け取るもので、厚生労働大臣によって診療行為の一つ一つに点数(1点10円)が定められています。全国一律の公定価格であり、医療機関が赤字減らしのために個別に単価を上げることはできません。2026年度は本体部分を3.09%引き上げましたが、薬価を含めた全体の改定率は2.22%となっています。

昨年11月に発表された厚生労働省の医療経済実態調査によると、2024年度は国公立などを含めた一般病院全体で67.6%が赤字でした。主な原因は人件費や資材費の高騰などで、2023年度も同様の赤字割合でした。こうした状況を受けて政府は2026年度の診療報酬の本体部分を6月から30年ぶりに3%超となる3.09%引き上げることを決めました。

2024年1月に公表された都道府県別の「医師偏在指標」では、最も数値が高かった東京都と低かった岩手県とでは1.9倍の開きがありました。地方の中でも特に郡部で医師不足が顕著です。

国は昨年12月の臨時国会で成立、今月から施行する改正医療法などの中に、医師偏在の是正策を盛り込みました。具体的には、医師の少ない地域で勤務する医師らに、公的医療保険の保険者の保険料から手当を支給する措置や、医師数過多の大阪や東京などで、診療所を新規開設する際、都道府県知事が地域で必要な休日の診療などの実施を要請、勧告できる制度を導入しています。応じない診療所は名称の公表や、保険診療をするのに必要な指定の期間短縮の対象となります。