新生児取り違え調査打ち切りに怒り 墨田産院の男性「戸別訪問なぜできない」
東京都立墨田産院(閉院)で出生直後に他の新生児と取り違えられた江蔵(えぐら)智さん(67)の生みの親を調査していた東京都は30日、調査を事実上打ち切る報告をした。都は「実施が許される範囲内で最大限の努力をしてきたが見つけられず、調査対象者へのさらなる働きかけは難しい」と説明したが、江蔵さんは「最低限の調査しかしていない」と納得せず、戸別訪問など調査を尽くすべき義務を果たすよう要請書を提出した。
対象を52人に絞り込むもDNA鑑定で親子関係確認できず
この取り違えを巡っては昨年4月、都に調査を求める江蔵さんの訴えを東京地裁が認め、都も控訴せず調査を開始していた。都は、江蔵さんが生まれた1958年4月に墨田区で出生届が出された男性116人のうち、墨田産院以外で生まれたのが明らかである人や出生日が大きく違う人を除く38人とその両親、計52人に調査対象者を絞り込んだ。
都は52人に本人のみ開封できる形で文書を送り、調査への協力を求めた。一部の人はDNA鑑定に応じるなどしたが、江蔵さんと親子関係が確認できる人はいなかった。文書を複数回送っても回答がいまだない人もいるが、都は本人以外に情報が漏れる恐れなどを理由に戸別訪問や電話はしていない。
調査は職員4人が専従で行っていたが、今後は2人が兼務で残り、新たな回答が来れば応じるが積極的な働きかけはしないという。都立病院支援部の鈴木和典部長は報道陣の取材に「できる範囲の調査はやった。終了にはできないが、一つの区切り」と述べた。
「最低限の手紙による調査だけ、腹立たしい」
「突っ込んだ調査をしてもらえると思っていた。最低限の手紙だけ、腹立たしくて仕方が無い」。都からの報告後に報道陣の取材に応じた江蔵智さんは怒りをあらわにした。かつて自ら墨田区で訪ね歩いた時にはどの家も協力的だったと振り返り「なぜ戸別訪問もできないのか」と疑問を呈した。
都は「精神的な動揺や人間関係に不利益な影響を与える可能性」などを理由に、書面への回答がない人にそれ以上の接触は難しいと結論づけた。ただ、昨年4月の判決は、調査対象者に説明する行為には「違法な権利利益の侵害の恐れは無い」と判断しており、江蔵さん側は戸別訪問とその予算や人員確保を要請した。
代理人の小川隆太郎弁護士は、判決の中に「戸別訪問等の適切な方法」での調査が明記されているとし「実施しなければ履行にならない」と強調した。
「両親を知るまで調べてもらいたい。知りたいだけ」
都は、調査に応じた人数や未回答の人数を「個人への特定につながる」などとして非公表とした。江蔵さん側には伝えたが、代理人の海渡雄一弁護士は「DNA鑑定に応じたのは極めて少数で、納得できる数字ではない」と述べた。
「実子に会いたい」と願っていた江蔵さんの育ての母、チヨ子さんも昨年11月に他界した。江蔵さんは無念をにじませ「両親を知るまで調べてもらいたい。知りたいだけ」と語った。



