厳重な管理体制でも防げなかった抗がん剤誤投与、患者死亡の衝撃
埼玉県立小児医療センター(さいたま市中央区)で、白血病治療のために抗がん剤を投与された患者3人全員から、使われるはずのない抗がん剤「ビンクリスチン」が検出され、1人が死亡、2人が重体となる深刻な医療事故が発生した。センターは昨年11月から院内調査を実施していたが、ビンクリスチンが誤って投与された形跡は見つかっておらず、原因は依然として不明のままだ。
「想定外だった」と複雑な表情の調査委員長
「まさか、入るはずのない薬剤が検出されるとは。正直、想定外だった」。センターが事実を公表した記者会見で、調査対策委員会の委員長を務める中沢温子医師はこう語り、複雑な表情を見せた。患者3人はそれぞれ昨年1月、3月、10月に抗がん剤を投与された後、歩行困難や大腿部の痛みなどの神経症状が現れ、重篤な状態に陥った。これは髄液に薬液を注入する「髄腔内注射」という標準的な治療法が行われていた。
三重セキュリティーと分単位の記録でも防げず
センターでは抗がん剤の調剤から投与まで、厳格な管理体制が敷かれていた。調剤は投与当日、他の薬と時間をずらして薬剤師が医師の指示書に沿って実施。薬液を入れた注射器はビニール容器で病棟に運ばれ、医師と看護師が投与する。複数人によるチェック体制が取られ、調剤記録も分単位で残されていた。
さらに、外部から調剤室に入るには専用のセキュリティーカードが必要なドアを3カ所通る必要があり、ビンクリスチンは劇薬用の鍵付き保管庫で管理されていた。中沢医師は「通常の手順では混入する可能性は低い」と説明するが、それでも事故は防げなかった。
「脊髄に間違って入れるような薬ではない」と専門家
ビンクリスチンは静脈注射で広く使用される抗がん剤だが、髄腔内に誤って投与されると深刻な神経障害を引き起こしやすい。NPO法人「医療ガバナンス研究所」理事長の上昌広医師は「皮下組織を壊死させるほどの強い薬剤で、慎重に扱うのは基本中の基本。脊髄に間違って入れるような薬ではない」と指摘する。
センターには医師、看護師、事務職ら1000人以上が勤務しており、薬剤師は30人。このうち5、6人が抗がん剤の調剤を担当している。センターから届け出を受けた県警幹部は「情報収集中で何かを答えられる段階にない」と述べ、捜査が続いている。
調査委員会は記録の確認や職員への聞き取りを実施した結果、抗がん剤の調剤から運搬、投与までの手順自体には問題がなかったと結論付けた。しかし、なぜビンクリスチンが患者全員から検出されたのか、その原因は解明されていない。専門家は「通常では考えられない事態だ」と警鐘を鳴らしており、医療現場の安全管理の在り方が改めて問われる事態となっている。



