米トランプ大統領は2025年5月、米国内の医薬品価格を他の先進国の価格に引き下げる薬価政策を目指す大統領令に署名した。「最恵国待遇(Most Favored Nation: MFN)政策」と呼ばれるこの措置は、日本にも影響を及ぼす可能性が懸念されている。本稿では、その仕組みと今後の展望を詳しく解説する。
MFN政策とは何か
トランプ氏は2期目の任期開始から約4カ月が経過した2025年5月12日、米国の薬価を他の先進国に合わせて引き下げる大統領令に署名した。この政策は最恵国待遇(MFN)の考え方に基づき、製薬企業が最も安い価格で販売している国と同じ価格を米国でも設定することを求める内容だ。ただし、署名時点では具体的な実施方法は示されていなかった。
MFN政策の背景
米国の新薬価格は他の先進国と比較して約3倍高いとされる。トランプ氏は1期目から米国内の医薬品価格引き下げを訴えており、民主党政権も薬価低減政策を検討するなど、超党派の課題だった。欧州や日本では公的医療保険制度への支出抑制のため、薬価に対する国の関与が強く、価格が低く抑えられている。一方、民間医療保険が主体の米国では製薬会社が自由に薬価を設定できるため、高価格となっている。
新薬の開発には1薬あたり数千億円のコストがかかり、製薬企業は米国での高収益によって開発費を回収している。米国側はこの不均衡な状態を問題視し、さらに米国で臨床試験を実施し開発された新薬の多くやその原料を米国が輸入している現状も批判の対象となっている。
日本の医薬品市場の特徴
日本では、公的医療保険制度のもとで薬価が厳格に管理されている。厚生労働省が定期的に薬価を改定し、新薬の価格も諸外国の価格を参考に設定される。そのため、日本での新薬価格は米国に比べて低く、製薬企業にとっては収益性が低い市場となっている。
「ドラッグロス」の懸念
MFN政策が実施されると、米国の薬価が低下し、製薬企業の収益が減少する可能性がある。その結果、企業は新薬開発への投資を抑制したり、低価格市場への販売を優先しなくなる恐れがある。日本はすでに「ドラッグロス」(海外で承認された新薬が日本で使えなくなる現象)の問題に直面しており、MFN政策によってさらに深刻化する可能性が指摘されている。
今後の展望
MFN政策の詳細はまだ明確ではなく、今後の政権運営や議会との調整、製薬業界の反応によって影響が変わる。日本政府は、国民への医薬品供給に支障が出ないよう、国際的な協調や国内制度の見直しを検討する必要がある。また、製薬企業に対しては、日本市場への継続的な参入を促すインセンティブ設計が求められる。
この問題は、医療費の適正化と革新的な医薬品へのアクセス確保という、各国共通の課題を浮き彫りにしている。今後の動向に注目が集まる。



