認知症と資産管理の現状と課題
超高齢社会を迎える日本において、認知症および軽度認知障害の人は高齢者の約3割を占めています。彼らが保有する家計資産は、総額で約260兆円に達すると推計されています。この膨大な資産を巡っては、詐欺や消費者トラブルが多発している一方で、過度な保護が本人の資産利用を制限するジレンマも生じています。
金融機関での口座凍結と資産管理の制限
認知症と診断された場合、金融機関は不正利用や詐欺を防ぐため、口座を凍結する措置を取ることが少なくありません。口座が凍結されると、本人や家族であっても現金の引き出しや口座解約が不可能となります。さらに、不動産の売買や生命保険の契約・変更手続きなど、重要な法律行為も本人名義では実行できなくなります。
また、両親の一方が亡くなり、残された親が認知症を患っている場合、相続や遺産分割協議が進められないケースも見られます。これらの課題は、認知症患者とその家族にとって深刻な問題となっています。
成年後見制度の限界と事前対策の重要性
現状では、認知機能が低下した後の法律行為を進める手段として、成年後見制度の利用が考えられます。しかし、この制度には申し立てから選任まで数カ月を要すること、原則として死亡まで終了しないこと、専門職が選任されれば毎月一定の報酬が必要となることなど、実用面での課題が指摘されています。
日本認知症資産相談士協会の湊貴行理事は、「成年後見に至る前に、予防としてできる対策は存在するものの、その情報が十分に知られておらず、活用が進んでいないのが現状です」と説明します。
具体的な事前対策の例
認知症発症前に可能な備えとして、以下のような対策が挙げられます。
- 遺言書の作成: 配偶者が認知症になった場合、自身が遺言を書くことで、後の遺産分割協議を円滑に進めることができます。
- 生前贈与の計画: 資産を前もって家族に贈与することで、認知症発症後の資産管理の負担を軽減できます。
- 信託制度の利用: 認知症に備えた財産管理の信託を設定する方法もあります。
これらの対策は、認知症による資産管理の混乱を未然に防ぎ、本人の意思を尊重した形で資産を活用することを可能にします。
専門家による啓発活動の広がり
一般社団法人日本認知症資産相談士協会(JDAC)は、司法書士や弁護士、不動産業や保険業の関係者らが中心となり、2023年夏に設立されました。同協会は、奈良県天理市などで終活セミナーを開催し、空き家問題や事業承継、生前贈与などのテーマについて専門家が講義を行っています。
セミナーでは、認知症になった場合に生じる課題や、可能な備えについて具体的な事例を交えて解説し、参加者から高い関心を集めています。湊理事は、「長い老後を自らの資産をどう使っていくか、あらかじめ計画することが重要です」と強調しています。
認知症と資産管理の問題は、個人の生活に直結する重要な課題です。事前の備えを通じて、保護と利用の両立を図ることが、超高齢社会における持続可能な資産管理の鍵となるでしょう。



