高市政権の安保3文書改定、8つの焦点:防衛費増額や非核三原則見直し論
高市政権の安保3文書改定、8つの焦点:防衛費や非核三原則

高市政権で安保3文書はどう変わる? 防衛費や非核三原則…8つの焦点

高市政権は、国の外交安全保障政策の基本方針となる「安全保障関連3文書」の改定に向けた議論を本格化させている。「新しい戦い方」や「総合的な国力」などを掲げ、国をあげて有事への備えを加速させる方針だ。その一方で、こうした動きによって、日本が長年掲げてきた平和国家としての理念が揺らぎかねないとの懸念も出ており、安全保障政策の大きな転換点になる可能性がある。

安保3文書は、日本の外交・防衛政策の基本方針を示す国家安全保障戦略(NSS)など、三つの文書を指す。安倍政権が2013年にNSSを初めて策定し、岸田政権が22年に3文書を一体的に改定した。今後およそ10年間の安全保障政策の方向性を定めるもので、日本の針路を左右する重要な指針とされている。

八つの焦点を整理

安保3文書の改定は、防衛政策の見直しにとどまらず、国の針路や国民生活の方向性にも関わる重要な論点となっている。これから議論が本格化するなか、焦点となる八つのテーマを整理する。

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防衛費増額:GDP比3.5%への圧力

高市政権が行う安保関連3文書の改定で、最大の焦点は防衛費の増額だ。政府は長く国内総生産(GDP)比で1%枠を維持してきたが、2022年に策定された現行の3文書で、27年度までに2%に引き上げることを決定。25年度に補正予算を合わせて2%を前倒しで達成した。

米トランプ政権は同盟国に、防衛費を対GDP比3.5%に引き上げることを要求している。現時点で政府は「金額ありきではない」「我が国の主体的な判断のもとで具体的かつ現実的な議論を積み上げていく」(木原稔官房長官)という見解だ。だが、北大西洋条約機構(NATO)や韓国は国防費を3.5%、豪州は3%に引き上げることを目標にすると表明しており、日本も増額は必至とみられている。

一方で、財源の捻出が大きな課題だ。仮に対GDP比3.5%となれば、防衛費は年20兆円超となる。現行計画では、防衛費の増額のために5年間で計14.6兆円の財源が新たに必要になった。所得税、法人税、たばこ税の増税などで確保する方針だったが、政府・与党内の調整が難航し、法人税とたばこ税は24年末、所得税は25年末に増税がようやく決まった経緯がある。今回増額となれば新たに国民負担が求められる可能性もある。

非核三原則:見直し論の行方

核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という国是で、1967年の佐藤栄作首相の国会答弁が原点。現行の国家安全保障戦略(NSS)にも「非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」と明記している。ただ、高市早苗首相は2024年の編著書で、日本が米国の核を含む戦力で守られている現状から、「持ち込ませず」について「現実的ではない」と指摘していた。

現状でも政府は米国の核の持ち込みを場合により認めている。民主党政権時代の10年、岡田克也外相が国会で、米国の核搭載艦の寄港を認めないと日本の安全が守れない場合に「時の政権が命運をかけて決断し、国民に説明する」と答弁。高市政権もこの立場を踏襲している。高市首相は就任以降、非核三原則の見直しについて明確には触れておらず、官邸幹部は「世論を見極めて決めるのだと思う」と明かす。

安保3文書改定に向けた有識者会議のメンバーには、「持ち込ませず」の見直しについて議題とすべきだと主張する専門家がいるほか、日本維新の会の議論でも見直しを求める声が出ている。

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朝日新聞社が26年3~4月に行った全国世論調査(郵送)では、非核三原則を「維持すべきだ」が75%で、「見直すべきだ」の21%を大きく上回った。日本は唯一の戦争被爆国として、核保有国と非保有国の「橋渡し役」を自任しており、「堅持」を明記しなければこうした外交方針に影響を与えるのは必至だ。

新しい戦い方:無人機とAIの活用

AI(人工知能)や大量の無人機を攻撃に使う「新しい戦い方」への対応も注目だ。高市首相は有識者会議で「ロシアのウクライナ侵略や中東情勢を教訓に、新しい戦い方への対応を進めなければならない」と述べた。

ウクライナ侵攻では、安価なドローンや無人機が大量投入され、有人戦闘機やミサイルなど高価な武器を破壊するという「非対称戦」が展開された。

政府は今後、ドローンや無人機の取得を拡大する方針で、長距離攻撃ができる無人機の導入も検討している。有事の際に大量の無人機が使われることを想定し、国内で生産し続けられる安定したサプライチェーン(供給網)を築くことも目指している。

米国とイスラエルによるイラン攻撃では、AIが、戦場での情報共有や意思決定の迅速化をもたらしたと指摘される。防衛省は2024年、AIの活用を防衛分野で進めるための基本方針を策定。活用の検討を進めている。

巧妙化・高度化されたサイバー攻撃や、偽情報を拡散して社会の分断を狙う認知戦への備えも課題となっている。

防衛産業の強化と武器輸出全面解禁

高市政権は、投資を集中的に行う17分野の一つに防衛産業を掲げ、経済成長の柱に位置づけている。官民投資で「防衛と経済の好循環」を図る。狙うのは、日本が長く戦い続ける「継戦能力」の強化だ。政府は、ロシアのウクライナ侵攻を教訓に、武器・弾薬の安定的な供給について「平素からの備蓄や開戦後の増産体制の整備が重要だ」と分析している。

2026年4月に防衛装備移転三原則と運用指針を改定し、殺傷能力のある武器の輸出を全面的に解禁した。同盟国や同志国との連携強化や、防衛産業の販路拡大につなげたい考えだ。

政府・与党は弾薬などの軍需工場を国有化して民間企業に運営を委託することを検討している。将来的には防衛関連企業の再編も見据えるが、国有化は平和主義の観点から賛否が分かれそうだ。

現行の安保3文書では、防衛産業を「防衛省・自衛隊と共に国防を担うパートナー」と定義している。次の3文書では防衛産業への政府の関与がさらに強まると想定される中、軍事と経済の結びつきをどこまで許すのかも問われている。

原子力潜水艦導入の是非

「原子力潜水艦」と明記する形で、導入の必要性が示されるか注目される。小泉進次郎防衛相は「周りの国々は持っている」と述べた。中国やロシアが保有し、北朝鮮が建造中とされるほか、韓国が2030年代後半に配備する計画を明らかにしたことが念頭にある。

25年9月、防衛省が設置した有識者会議は、原潜を念頭に「次世代の動力」を活用した敵基地攻撃能力をもつミサイル垂直発射装置(VLS)搭載の潜水艦の検討を提言した。

4月の安保3文書改定に向けた有識者会議では、遠藤典子・早大研究院教授が「中国の太平洋での活動が活発化している」として、原潜の導入は必要との考えを示している。

原潜は長時間の潜航が可能で、大型のミサイルを載せた状態でも高速で移動できる利点がある。だが、開発や運用に膨大なコストがかかり、人材の確保や育成が難しく、原子力の平和利用を定めた原子力基本法との整合性も問われる。防衛省内では、導入に否定的な見方が根強い。

安保3文書改定に向けた自民党の提言でも、原潜に直接は言及せず、「次世代の動力の活用」の検討という表現にとどまる見通しだ。

米国の変容と同盟強化

高市早苗首相が安保3文書の前倒し改定を表明したのは、2025年10月、トランプ米大統領の訪日を目前に控える所信表明演説だった。同盟国が米国の安保に「ただ乗り」しているとして負担増を求めるトランプ氏に対し、日本が主体的に防衛力強化に取り組む姿勢を打ち出したのが出発点だ。

トランプ氏は米大陸のある西半球への関与を最優先させる「ドンロー主義」を掲げる。イラン攻撃では国際法を軽視する姿勢を示すなど、日本が重視するルールに基づく国際秩序は揺らいでいる。中国が海洋進出を強めるなか、米国がインド太平洋地域への関与を弱めれば、日本の安保の前提が崩れることになる。

安保3文書改定に向けた有識者会議の初会合で、政府は「国際社会における諸課題に対する米国の優先順位が変化するなか、米国の同盟国・同志国が一層主体的に取り組まなければならない課題が生じ、果たすべき役割が変化することは不可避」との認識を示した。

小泉進次郎防衛相は「米国と同盟国・同志国の間に隙間が生まれれば、それを好機と見る勢力が必ず現れる」と危機感を示す。3文書では米国の変容と、同様の課題を抱える同志国との連携強化をどのように位置づけるかが課題となる。

中国への情勢認識

2025年11月の台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁を機に関係が悪化した中国について、どのような情勢認識を示すかも焦点だ。

22年の安保3文書策定では、自民党は中国の動向を「脅威」と位置づける提言を出した。ただ、3文書では中国の反発を招くリスクもあるため表現を弱めつつ、最終的に「これまでにない最大の戦略的な挑戦」とした経緯がある。

前回の改定以降、中国軍の空母は3隻体制となり、西太平洋への進出を急拡大させている。また、中国軍機による日本の領空侵犯や、空母艦載機による自衛隊機への異常接近などもあった。今回の改定にむけた自民の提言案では、こうした中国の活発化する軍事活動に具体的に言及する一方、22年の提言のような情勢認識は書き込んでいない。

中国は首相の国会答弁以降、高市政権が軍備増強を進めているとして「新型軍国主義」との批判を繰り返している。対中認識の表現次第で、関係のさらなる悪化につながる恐れもある。

経済安全保障の強化

中東情勢をめぐりイランがホルムズ海峡を封鎖し米国に対抗するなど、国際社会では「経済の武器化」があらわになっている。伝統的な軍事手段による安全保障に加え、サプライチェーン(供給網)の寸断に備えた経済安全保障の重要性は増している。

日本はエネルギーや食料など国民生活に必要な多くの物資を輸入に頼っている。政府はこうした物資の安定供給に向け、自国での生産基盤の強化のほか、同盟国や同志国と連携して供給網を維持する「集団的自律性」の確保をめざしている。

また、そのための手段として、グローバルサウス(新興・途上国)の国々を念頭に、日本の経済安保に資する海外事業に対し、政府の途上国援助(ODA)などを使った支援も強化する方針だ。

ただ、有事に備えた必需品の備蓄や供給先の多角化に政府が過度に介入すれば、コストが膨大になる。また、統制経済のようになり、経済の活力を奪うことにもなりかねず、政府には優先度をつけた対応が求められる。