『保育の帝国史』書評 就学前教育から見る帝国日本の統治
『保育の帝国史』書評 就学前教育と帝国統治

『保育の帝国史 家族をめぐる統治の技法』(大石茜著、岩波書店)が刊行された。歴史社会学者である著者は、これまで見過ごされがちだった幼稚園や保育園の歴史に焦点を当てる。初等以上の学校教育史に比べ、就学前教育の変遷や地域差はあまり注目されてこなかった。しかし、言語習得や対人コミュニケーション、身体形成といった重要な時期であることは言うまでもない。

内地と植民地での保育の差異

本書では、台湾、朝鮮半島、南洋諸島、満洲(現中国東北部)を含む帝国日本における保育の実態を比較する。内地では、東京の附属幼稚園が先駆けた保育は形式主義的で富裕層向けの貴族的性格を持ち、批判の対象となった。一方、植民地では保育が内地人や一部の被植民者富裕層の特権性を示す装置として機能した。

言語と宗教の関わり

言語や宗教との関係も興味深い。台湾では日本語早期教育の場として保育の需要が高まった。朝鮮では、朝鮮基督教が現地住民向けに朝鮮語での保育を実施した。一方、朝鮮に渡った内地人の保育は仏教が担った。これは、近代社会に適応するため植民地での開教に力を入れる仏教界の動向が背景にある。

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満洲における保育の役割

満洲では、極寒の地で子どもの健康を確保する必要から保育が重視された。満鉄の託児事業は、主婦を家事講習に勤しませ、良妻賢母へと導き管理することと表裏一体だった。

アジールとしての保育

保育の現場には、制度的規制が及びにくい「アジール」(聖域)の様相も見られる。文部省や統治当局は学校教育に比べて保育を軽視したため、内外地でキリスト教による保育事業が広がった。支配者と被支配者の関係が転覆され、民族ナショナリズムと結びつくこともあった。

著者は地道で丹念な史料発掘とオーラル・ヒストリーの積み重ねを通して、複雑な歴史像に真摯に向き合う。アジールとしての保育を描き出し、言語、宗教、家族、ナショナリズムが複雑に絡み合う帝国日本を多角的かつスリリングに問い直す力作である。

価格は8030円(税込)。

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