TSMC進出の熊本に台湾マネー殺到 「有事」見据えた投資の実態
TSMC進出の熊本に台湾マネー殺到 「有事」見据えた投資

台湾マネーが熊本に集中する理由

熊本県内で不動産投資や仲介を手がける陳振興氏の元には、2025年1月上旬、台湾の知人や顧客から相次いで問い合わせが寄せられた。「物件を案内してほしい。できるだけ早く購入したい」という内容だ。彼らが狙うのは、熊本市内や菊陽町、大津町の戸建て住宅やマンション。その背景には、台湾海峡をめぐる緊張の高まりがある。

前年の2024年、台湾海峡周辺では中国の軍事演習が頻発し、台湾社会では不安が広がっていた。新年を迎えても、「中国による侵攻が近いかもしれない」と懸念する台湾人は少なくなかったという。

「台湾有事」を見据えた避難計画

陳氏は次のように語る。「台湾海峡の緊張が高まるほど、熊本の不動産需要は増える。これは経験則として間違いありません。中には、何かあった場合にまず家族を海外に避難させる行動計画を決めている人も少なくない」

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なぜ熊本なのか。その答えは、世界最大の半導体製造会社である台湾積体電路製造(TSMC)の進出にある。TSMCは熊本県菊陽町に工場を建設し、先端半導体の生産を開始。これに伴い、関連企業や台湾人労働者も続々と熊本に集まっている。

「シリコン・シールド」が生む経済安全保障

世界の先端半導体の9割を台湾に依存する現状は、経済安全保障上のリスクとされる。日本政府はTSMCの熊本進出を「シリコン・シールド」と位置づけ、半導体の安定供給確保を目指す。しかし、その一方で、地方都市・熊本は台湾マネーの流入により、不動産価格の高騰や地域社会の変化に直面している。

JR熊本駅前にはタワーマンションが立ち並び、台湾人投資家が保有する物件も少なくない。熊本の不動産市場は、TSMC効果と「台湾有事」への備えという二つの要因で活況を呈している。

現場の声:投資家たちの思惑

陳氏によれば、台湾人投資家の多くは「避難用」として物件を購入する。実際に住むわけではなく、いざという時の安全な避難先として確保するのだ。また、中には投資目的で購入し、賃貸に出しているケースもある。

熊本県内の不動産業者からは、「台湾からの問い合わせが急増しており、対応に追われている」との声が聞かれる。特に、TSMCの工場が立地する菊陽町や大津町では、土地や住宅の価格が上昇し、地元住民からは「手が出せなくなった」との嘆きも聞かれる。

熊本の未来は

TSMC進出は、熊本に経済的な恩恵をもたらす一方で、地域社会に様々な課題を突きつけている。台湾マネーの流入は、半導体産業の集積を促進し、雇用を生み出すが、同時に不動産価格の高騰やインフラの整備不足といった問題も顕在化させている。

日本政府が掲げる経済安全保障政策の舞台となった熊本。その行方は、半導体産業の動向だけでなく、台湾海峡の情勢にも左右される。地元住民と台湾人投資家が共存する新たな地域モデルが求められている。

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