増加する個人投資家「ファン株主」にできるか 上場企業の新たな課題
増加する個人投資家「ファン株主」にできるか 上場企業の課題

投資家向け広報(IR)において、個人株主への対応を強化する企業が増加している。取引先との株式持ち合い解消が進む中、新たな「安定株主」として個人投資家に期待が集まっている。

個人株主を「経営資源」と捉える企業

JR東日本は、個人投資家を主な対象とした「株主向けイベント」の開催を拡大している。新幹線の親子おそうじ体験会や車両基地見学会、支社長との懇談会など、内容は多岐にわたる。2025年度は計19回開催し、2026年度も15回程度を予定している。

JR東日本の個人株主は約30万人。2021年度から個人向けIRを強化しており、イベント開催もその一環だ。株主の声を直接聞く場としても機能しており、総務・法務戦略部の青木義和マネジャーは「BtoCビジネスを本業とする当社にとって、個人株主は重要な存在だ」と語る。同社の事業は大規模施設整備など成果に時間がかかるため、中長期保有傾向のある個人株主と相性が良いという。

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株主が企業やブランドに愛着を持つ「ファン株主」になることも期待されている。メールマガジンや株主優待の拡充で接点を増やし、青木氏は「30万人の個人株主を単なる出資者ではなく、貴重な経営資源と捉えることが大事だ」と強調する。

個人株主数は過去最多、企業の期待高まる

日本証券業協会の調査によると、2024年度末の個人株主数(名寄せ人数)は約1600万人で過去最高を更新した。株式分割で購入しやすくなったことに加え、株高で投資関心が高まったことが背景にある。また、企業は銀行や取引先との持ち合い株解消を進めており、新たな安定株主として個人に期待を寄せる。同協会の2025年の調査では、個人株主の平均保有期間は「10年以上」が28.1%と最多だった。

対話チャネルのデジタル化が進む

個人株主と企業をつなぐサービスへの引き合いも増加している。三井住友信託銀行が提供するスマートフォンアプリ「株主パスポート」は、適時開示や配当情報を個人株主に配信。株主総会前には議決権行使に関する情報が表示され、そのまま行使可能だ。従来のようなQRコード読み込みの手間が省ける。

証券代行部の山田慶子次世代ビジネス検討チーム長は「企業と個人株主のやり取りは郵送が中心だったが、時間も手間もかかる。アプリでコミュニケーション頻度を高め、タイムリーな情報発信ができる」と説明する。さらに、株売却者へのアンケート機能もあり、企業は株主名簿の基本情報に加え、より詳細なデータを得られる。

2025年4月のサービス開始以来、利用企業は1100社を超えた。その一社、極楽湯ホールディングスは2025年度から導入。100株以上保有株主に無料入浴券を配布していたが、印刷・郵送コストが課題だった。株主パスポートの優待情報配信機能で入浴券を電子化し、コスト削減や利便性向上に加え、「偽造品対策にも役立っている」(担当者)と効果を語る。

個人株主の「物言う株主」化リスク

個人株主は議決権行使率が低く「物言わぬ株主」と見られてきた。信託協会の調査では、2025年6月までの1年間の行使率(株主数ベース)は38.7%で、前年から微減した。しかし、アクティビストの存在感が増す中、変化も見られる。

IR支援のリンクソシュールが2024年に実施した調査では、1年以内の株主総会でアクティビストからの株主提案に賛成した個人投資家が51%に上った。アクティビストがインターネット上に特設ページを設け、賛同を呼びかけるケースもある。大和総研の瀬戸佑基研究員は「SNS上の情報にあおられて売買したり、個人が『物言う株主』化したりする可能性はある」と指摘する。

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三井住友信託銀行の山田氏は「有事に備える意味でも、平時から株主と対話することが重要だ」と述べている。