スモーキングルーム第251回:金ボタンと兎耳の静かな夜
スモーキングルーム第251回 金ボタンと兎耳

「ありがとうございます」と金ボタンが応じた瞬間、同じテーブルの男性たちに向かって「母がね、ここの中国趣味(シノワズリ)の部屋がお気に入りだったんだ。漆細工が見事な部屋でね」と説明を始めていた。金ボタンは、彼が若い頃からせっかちな人だったことを思い出した。

「鳳凰の部屋」と呼ばれる場所

「『鳳凰の部屋』と呼ばれております」と金ボタンが言うと、客は「まだ、あるのだね。今度、妻と泊まらせてもらうよ」と応じた。金ボタンは「是非。きっと懐かしい香りがするはずです」と答えた。グラスを銀の盆に載せ、テーブルを離れると、背後から「ここは変わらないな、安心するよ」「君が前時代的なものに感心するとはめずらしい」という会話が聞こえてきた。

そのとき、ペンを指先で回す兎耳と目が合った。金ボタンは、また聞いていたんだなと思い、念のため「いかがいたしましたか」と声をかけた。兎耳は「いや」と薄く笑い、すぐに自分のノートに目を落とした。暖炉の火が照らす横顔はもう笑っていなかった。

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夜更けのカフェでの一幕

夜が更け、スモーキングルームの客がまばらになってきたのを見計らって、金ボタンはもうすっかり静まり返ったカフェへ行った。並んだテーブルに白いテーブルクロスをかけ、朝食の用意を始める。すると、厨房から小さな人影が走ってきた。

「砂糖っ子」と金ボタンはテーブルクロスの皺を伸ばしながら言った。「ホテルマンは走らない。素早く歩くんだ」

砂糖煮の娘は飛びあがるようにして止まり、胸を張って歩いてきた。手には年代物の黒いシルクハットを持っていた。「あれ、懐かしいな」と金ボタンが言うと、砂糖煮の娘は「どう?」と頭に載せてくるりと回る。シルクハットは顔の半分を覆い、被るというよりは目隠しになってしまっている。「どこで見つけた」と金ボタンが笑うと、「ものおきのへや。これかぶると、えりまきがよろこぶの」と彼女は答えた。

こうして、静かな夜のひとときが過ぎていく。金ボタンは、変わらぬ日常の中に、小さな変化を見つけていた。

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