「リア王」吉田鋼太郎の緩急、ほとばしる熱量…脇に回った石原さとみと藤原竜也が作品に厚み
「リア王」吉田鋼太郎の緩急、熱量…脇の石原さとみと藤原竜也が厚み

5月に上演された好舞台を演劇担当記者が語り合った。

「リア王」吉田鋼太郎の圧巻の熱演

5月はシェークスピア劇の上演が相次いだが、彩の国さいたま芸術劇場で上演された「リア王」では、日本を代表するシェークスピア俳優、吉田鋼太郎が満を持して表題役を演じた。長塚圭史の演出は俳優の身体とせりふで直球勝負した印象だ。吉田の見事なせりふの緩急がリア王としての感情起伏の激しさを表現し、とてつもないエネルギーを放ち続けていた。

脇を固める豪華キャスト

長女ゴネリルを演じた石原さとみ、家臣グロスター伯爵の息子エドガー役の藤原竜也と、主役級の2人があえて脇に回る豪華な布陣で、ともにいい味を出して作品に厚みを与えた。相撲の土俵のような、土を盛っただけに見えるシンプルな舞台美術(石原敬)も印象的だった。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

若手の挑戦とベテランの味わい

21歳の市川染五郎が「ハムレット」に初めて挑んだ。堂々たる気品をまとい、せりふを粒立たせて聴かせた。明晰な考えと強い意志を持ち、その信念に基づいて突き進んでいくようなハムレットだった。ただ、全体的な演出や衣装に関しての統一感が見えず、惜しい気がした。

「らくだ」は、仏名優ジャン・レノの一人舞台。らくだのように「じっくりと考え、ゆっくりと歩む」自らの半生を語りや歌でつづった。個人史から「グラン・ブルー」「クリムゾン・リバー」などの人気映画の裏話まで人間味あふれるエピソードが満載。誠実さを貫いてきた生き方が、映画での心に響く演技に結実したのだと感じた。

華やかな映画スターの知られざる素顔に触れられた。母のいる原風景、差別された少年時代、自分の場所が見つからない不遇時代――。巧みな構成、歌声の色気、観客との親密な空気が心地よかった。

新世代のテント演劇と古典の再演

天幕劇場深海洋燈の「東京金魚」は、申大樹が作・演出した新世代のテント演劇。30人超の男女が「革命の歌」を絶叫し、花火がさく裂するオープニングの後、ショーパブの金魚(史椛穂)と紛争地帯出身のダンサー姉妹の切なく幻想的な物語が展開した。様々な比喩、情念、反戦の思い、濃いキャラクターとアングラ要素が満載ながら、照明や美術、音楽、ダンスのセンスがいい。新しい波を起こしそうだ。

文化座「母」は、プロレタリア作家、小林多喜二の母セキの波乱に富んだ半生を描く。セキ役の佐々木愛は7月で83歳。家族を大きな愛で包み込む泰然自若とした演技が素晴らしかった。昨年から100ステージを超える地方公演を重ねてきたとは思えない活力にあふれていた。

華やかなダンスと音楽の舞台

こまつ座「花よりタンゴ」は戦後日本を舞台に華族出身の4姉妹が経営する銀座のダンスホールを守ろうとする物語。時代の流れに取り残される旧体制側の人々を描いており、チェーホフの「桜の園」をほうふつとさせたが、姉妹のある種のたくましさと明るさには、井上ひさし作品らしい魅力が詰まっていた。長女役・朝海ひかるのダンスの美しさ、三女役・大原櫻子の歌のうまさが光るぜいたくな舞台だった。

共生をテーマにした作品

「トム・プロジェクト版 チョークで描く夢」は健常者と知的障害者の共生がテーマ。作・演出の中津留章仁が3年前に自身の劇団で上演した作品を再構成し、「人は変われる」という希望のメッセージが力強く伝わった。劇団チョコレートケーキ「帰還不能点」も再演だが、作品の潜在力をさらに掘り下げて見応えがあった。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

群像劇の魅力

「Private Fears in Public Places」は英劇作家アラン・エイクボーンのせりふ劇をミュージカル俳優12人が2チームで演じた。破局寸前のカップル、不動産業者と同僚、不動産業者の妹にバーテンダーという孤独な6人が交錯して生まれるドラマを50以上もの場面で見せる群像劇。日常で抱きがちな喜怒哀楽を鈴木壮麻、樋口麻美らが丹念に紡ぎ、心に響いた。元吉庸泰の演出力や音くり寿のミステリアスな存在感も良かった。