パレスチナ伝統料理ムサッハン、秋のオリーブ油と炭焼き鶏肉の味わいを探る
パレスチナ伝統料理ムサッハン、秋の味覚と文化を継承

パレスチナの秋を彩る伝統肉料理、ムサッハンの魅力

パレスチナを代表する肉料理であるムサッハンは、オリーブ油が収穫される秋の季節に特に好んで食される伝統的な家庭料理です。搾りたての新鮮なオリーブ油の芳醇な香りを家族で楽しみながら、今年の出来栄えを語り合い、頬張る光景は、長年にわたって受け継がれてきた食卓の大切な一幕となっています。

ラマッラの老舗レストランが守る本格的な味

ヨルダン川西岸の主要都市であるラマッラの旧市街に位置する老舗レストラン「ザアルール」では、骨付きの鶏肉を炭火でじっくりと焼き上げる本格的なムサッハンを提供しています。その香ばしく深みのある味わいは地元住民から高い人気を博しており、パレスチナ自治政府を訪問する外交団の間でも賑わいを見せています。

同店の調理法は、まず刻んだタマネギをたっぷりのオリーブ油で茶色くなるまで丁寧に炒めることから始まります。そこに赤く酸味のある香辛料スマックやクミン、ナツメグを加えて風味を調え、薄い丸パンであるホブズの上に炭焼きの鶏肉と炒めたタマネギを豪快にのせます。最後にアーモンドをふりかけ、オーブンで軽く焼き上げることで完成します。

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築200年の家屋で受け継がれるパレスチナの象徴

ザアルールレストランは1985年、築200年を超える自宅を改装して開店しました。弟と共同で経営するナビール・ザアルールさん(65歳)は、「複雑な料理ではありませんが、全て地元で採れた食材を使用する点が、パレスチナを象徴する料理である所以です」と胸を張ります。

興味深いことに、ムサッハンはパレスチナ民族運動を率いたヤセル・アラファト元議長の好物として知られ、彼も側近と共にこの店を訪れたことがあるといいます。ナビールさんは、「骨付きの鶏肉を手でつかみ、かぶりつくように豪快に食べていました」と当時を振り返ります。

訪問客もアラファト氏に倣い、手で豪快に食べることを推奨されています。ホブズをちぎって鶏肉とタマネギをのせ、少量のヨーグルトを添えて一気に頬張ると、香ばしい鶏肉とスマックの酸味が絶妙に調和し、豊かな味わいを生み出します。手はオリーブ油でベトベトになりますが、それは大地の恵みを存分に堪能した証ともいえるでしょう。

家庭料理としてのムサッハンとオリーブの文化的意義

中東の料理には国境を越えて共通するものが多い中、ムサッハンはパレスチナ独特の料理として際立っています。基本的には家庭料理であり、パレスチナ人の女性は結婚前に母親から作り方を仕込まれ、「家庭の味」として代々継承されています。

オリーブはパレスチナ人の生き方を象徴する重要なシンボルです。木はパレスチナの大地に接ぎ木を繰り返しながら何世代にもわたって根を張り、この地に暮らす人々の結束と持続性を表しています。一度植えれば比較的手間がかからず、農家以外でも多くの人々が育てており、実は漬物にしたり、搾って油にしたりと用途が広いことから、「金を生み出す木」とも称されます。「オリーブは家の礎」という古いことわざがあるほど、生活に密着した存在なのです。

現代の課題と未来への継承

近年では、秋の収穫シーズンにイスラエル人入植者が畑に侵入し、オリーブの木を根こそぎ抜いたり、農作業を妨害したりする事件が発生しています。加えて、昨夏の降雨量の少なさも影響し、今年度の収穫量は激減、価格は例年の2倍から3倍に高騰しています。

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ザアルールレストランでも、仕入れ値の圧迫によりムサッハンの販売価格を維持することが難しくなっていますが、営業は続けられています。共同経営者のラムジーさん(62歳)は、「ムサッハンはパレスチナ人にずっと受け継がれていくべき料理です」と誇りを持って語り、伝統の味を守り抜く決意を示しています。