愛知県名古屋市緑区にある名古屋市営地下鉄桜通線の終点、徳重駅。2026年5月1日で開業15周年を迎えたこの駅は、かつて「陸の孤島」とも呼ばれた地域を一変させた。大型連休を前に、終点駅ならではの物語を探った。
終点駅の変遷
数ある駅の中でも、線路の果てにある終点駅は鉄道ファンならずとも気になる存在だ。地下鉄駅から路面電車の停留場まで、県内各地の駅を訪ねると、地域の移ろいを感慨深げに振り返る地元関係者に出会う。徳重駅もその一つ。平日午前7時、地下への出入り口めがけて通勤通学客が四方から集まる。今年で開業15周年を迎えた同駅は、1992年に決定された路線延伸により、県内有数のベッドタウンへと成長した。
かつての農村風景
かつて徳重にはダイコン、ブドウ、スイカの畑や鶏舎、牛舎が広がり、農地と雑木林が点在。人の姿はまばらだった。地元出身で、駅から徒歩10分ほどの場所で30年にわたりパン店「ベーカリー&カフェ くろわっさん」を営む中村美明さん(75)は幼少期を振り返る。「違う地域から来た人はすぐに分かったよ」と語る。高度経済成長期以降、農地の区画整理が進み移住者が増えても、交通の便の悪さは変わらず。妻の真澄さん(71)は40年ほど前、市外の友人と名古屋駅で待ち合わせた際、「あんた名古屋市内に住んでいるのにどれだけ時間かかるのよ」と言われたという。バスで20分強かけて地下鉄鶴舞線の原駅(天白区)まで行き、乗り換えた。「田舎だったな」としみじみ思い返す。
延伸事業がもたらした変貌
地域を変えたのは、野並駅から徳重まで4駅を新設し、2011年3月27日に開業した路線延伸事業。名古屋市営交通百年史によると、この区間は車の交通量が多く渋滞が問題化。大規模団地の造成で人口が増加し、地下鉄の輸送能力拡大が望まれていた。効果は鮮明で、2009年に5779人だった徳重学区の人口は増加し、現在は9319人に。国が2010年に公表した延伸区間の公示地価は、景気後退で下落傾向の中、上昇率で全国トップ5を占めた。
現在の徳重駅周辺
現在、雑木林やため池など農村地帯の名残が残る一方、商業施設や飲食店、図書館が立ち並ぶ。駅付近に家族4人で住む会社員鈴木好昭さん(33)は「公園もある。都会ではないけど、ちょうどいい」と評価。通勤時はほぼ必ず席に座れる始発駅ならではの魅力も感じている。店とともに街の変遷を見てきた中村美明さんは「桜の時期は公園で遊ぶ親子でいっぱい」と若い世代の増加を実感。かつて友人の一言にうつむいた真澄さんも、駅の存在感をかみしめる。「便利になったね」と語る。
延伸事業の概要
桜通線の延伸事業は2006年に着工し、総事業費670億円。鳴子北、相生山、神沢、徳重の4駅が新設された。開業時の徳重駅の乗車人数は1日6692人だったが、2024年度には1万123人に増加している。



