ICU本館が国の登録有形文化財に指定 軍事施設から教育機関への転用史が評価
東京都三鷹市にある国際基督教大学(ICU)の本館が、国の登録有形文化財(建造物)に正式に登録されました。この決定は、単なる建築的価値だけでなく、軍事産業施設から「平和と和解」を重視する大学校舎へと転用された歴史的経緯も重要な評価要素となっています。
戦時中の軍事施設から現代の学び舎へ
現在ICUのメイン校舎として使用されている本館は、元々は軍用機メーカー「旧中島飛行機」の三鷹研究所の設計本館でした。この施設では、太平洋戦争中に米本土爆撃を目的とした超大型爆撃機「富嶽」のエンジン開発や、特攻機「剣(つるぎ)」の開発などが行われていました。大学の隣には、現在も同社の流れを引くスバルの東京事業所が位置しています。
興味深いことに、建物の屋上四隅には、戦時中に重機関銃を設置したと伝えられる1.7メートル四方のコンクリート製台座が現存しています。通常は立ち入りが制限されている屋上に残るこれらの構造物は、この場所の歴史的変遷を物語る貴重な証拠となっています。周辺の歴史を研究するICU高校の高柳昌久教諭によれば、これらの台座は米軍の空襲が迫った際に防衛用として設置されたものとされています。
「回心」としての建物転用が評価
東京女子大学の森本あんり学長は、この建物の転用について「英語でconversion(回心)と呼ばれるプロセス」と表現しています。戦闘機や爆撃機の研究施設から、平和を創造するための教育機関へと「回心」を遂げたことが、今回の文化財登録において特に評価された点です。
政治学者の原武史氏は、大学キャンパスが旧軍事施設跡地に立地する事例は他にも存在すると指摘しています。例えば、神奈川県相模原市の相模女子大学キャンパスは旧陸軍通信学校跡地に、千葉県習志野市の千葉工業大学津田沼キャンパスは旧陸軍鉄道第二聯隊跡地に建設されています。しかし、ICUの場合は単なる跡地利用ではなく、元の建物自体を保存・転用している点が特徴的です。
登録有形文化財としての指定は、建物の外観的・構造的特徴に加えて、このような歴史的変遷と社会的意義が総合的に判断された結果と言えます。軍事産業の象徴であった空間が、国際理解と平和構築を理念とする大学の教育の場として再生されたことは、現代社会において特に意義深い事例となっています。
国際基督教大学は1953年に開学し、リベラルアーツ教育と国際性を重視してきました。本館は大学創設時から中心的な施設として使用され、数多くの学生がこの歴史的な空間で学びを深めてきました。今回の文化財登録は、建物の保存と継承に向けた新たな一歩となるでしょう。
