長久允監督が脚本指南書で提唱「個人的な物語こそ世界に通用する」創作哲学
映画監督・脚本家の長久允氏(1984年生まれ)による脚本指南書『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』(ダイヤモンド社)が、創作活動に関心を持つ幅広い層から注目を集めている。長久氏は日本人として初めて米サンダンス映画祭短編部門でグランプリを受賞した実績を持ち、長編映画「炎上」の公開など多方面で活躍するクリエイターだ。
初心者からプロまで役立つ実践的な指南
本書は専門家向けの技術書ではなく、「脚本は誰でも書ける。だから書いちゃいましょう」というメッセージを掲げ、創作の第一歩を踏み出したい初心者に向けた手解きを提供している。具体的な内容としては、書きたいものの発見方法から始まり、ログライン(物語を一行で伝える企画文)の作成、登場人物の作り込み、シーンの切り方、そしてセリフとト書きの書き方まで、脚本制作の一連の工程を丁寧に解説している。
さらに、一般的な方法に加えて著者独自のアプローチや裏技も紹介されており、実践的なノウハウが豊富に盛り込まれている点が特徴だ。これらの技術的な指南は、単なるハウツーを超えて、創作における根本的な姿勢を伝えるものとして評価されている。
「最も個人的なことが最もクリエイティブ」という核心的メッセージ
本書の白眉は、技術論を超えた創作哲学にある。長久氏は「最も個人的なことが、最もクリエイティブなことであり、強い表現になる」と強調し、自分にしか書けない個人的な物語だからこそ、逆に世界に通用する普遍性を持つと説いている。
具体的なアドバイスとして、自由にのびのび書くこと、「うまい」を追求しないこと、本当のことしか書かないことなどが挙げられており、作家性を保ちながら商業的に成功するための「個人的なモノづくり」の手法を指南している。著者自身が「学生時代の自分にタイムマシンで戻って読ませたい本」であり、同時に「プロとしてスランプに陥った時に読み返したい教本」と記す通り、経験豊富なクリエイターの深い洞察が随所に散りばめられている。
脚本家以外の表現活動者にも広がる影響力
本書の対象は脚本を書きたい人に限らない。小説家、漫画家(特にネーム制作を行う人)、YouTubeやTikTokで動画を配信する人(特にVlog配信者)、ウェブでエッセイを公開する人、自作アクセサリー販売者など、あらゆる表現活動に携わる人々の魂に刺さる内容となっている。
核心的な問いは、「いかに『自分』『個人』の感覚を握りしめたまま、『社会』と接していくか」という点にある。この観点では、蟹の親子著『日記をつけて何になる?』(柏書房)との併読が推奨されており、個人的な表現と社会的な受容の関係性を多角的に考察できる構成になっている。
長久允氏の指南書は、技術的なノウハウと哲学的な洞察をバランスよく融合させた稀有な作品として、創作活動に関心を持つ多くの人々に、ごく個人的な自分だけの表現を始めるきっかけを提供している。定価は1980円。



