震災後入社45%のJR東日本、教訓継承へ「語り手」養成を開始
2011年の東日本大震災の被災経験を次世代に継承しようと、JR東日本東北本部は今月から、社員を対象とした「語り手」養成プログラムを本格的に始動させました。同社では震災による津波で7路線の計約60キロの線路が流失するなど甚大な被害を受け、各地で乗客の避難誘導が行われました。しかし、震災後に入社した社員が全体の45%に達し、当時の対応や教訓を直接知らない若手が増加。記憶の風化を防ぐため、幅広い職場の社員が教訓を伝えられる体制づくりが急務となっています。
現場視察で若手社員が震災の教訓を学ぶ
「走行中の下り列車はここで緊急停止し、津波を免れました」。震災から15年を迎えた節目の日から一夜明けた3月12日、宮城県東松島市のJR仙石線旧野蒜駅近くの高台で、同本部安全企画ユニットの吉田有香さん(45)が説明を行いました。語り手を目指す4人の若手社員らが真剣な表情で耳を傾け、震災当時の緊迫した状況を想像していました。
震災時、旧野蒜駅周辺では仙石線の上下2本の列車が緊急停止。高台に停車した下り列車の乗員乗客約100人は、元消防団員の乗客の助言もあり、その場に待機して難を逃れました。一方、上り列車の停車位置には津波が押し寄せましたが、乗客数十人は運行指令の指示を受けた乗員の誘導で付近の小学校へ避難し、無事でした。このように、近くに停車した上下線が異なる対応を取った事例は、災害時の判断の重要性を如実に示す教訓として位置づけられています。
同本部は震災直後から、駅助役らを対象に当時の行動を伝える研修を実施してきました。しかし、震災後入社社員の割合が45%に達し、若手への継承が課題に。そこで今月、初めて「語り手」養成のための研修を導入し、組織全体に教訓を広げる取り組みを強化しました。これまでに管内から希望した社員計36人が参加し、現場視察を通じて学びを深めています。参加者からは「瞬時の判断力の必要性を実感した」「教訓を風化させてはならない」などの声が上がり、今後は各持ち場で語りを実施していく予定です。
避難誘導を担った車掌の思いと後輩への期待
研修の講師を務める安全企画ユニットの担当者らは、事前に震災当日に上り列車の車掌として避難誘導に当たった大竹雄一さん(44)から詳細な聞き取りを行いました。大竹さんは運行指令の指示を受け、運転手と協力して市指定避難場所の小学校へ乗客を誘導。多くの人々が校舎などに逃れて無事でしたが、体育館は津波にのまれ、地域住民ら少なくとも18人が死亡しました。JR東日本によると、犠牲者に乗客が含まれていたかは現在も不明です。
大竹さんは体育館に津波が押し寄せたことについて、「すぐに列車から避難したことは正しかったが、より安全な場所を探せたのではないかと今も悩んでいる」と複雑な思いを明かします。語り手養成が始まったことには、「震災を知る世代が退職しても、あの日の経験を後輩たちにずっと語り継いでもらいたい」と期待を寄せています。
同ユニットの阿部和豊マネジャー(49)は、震災後も災害が多発している現状を踏まえ、「当時の社員がどう判断したかを知り、自分ならどうするか考えることは、各現場の対応力強化につながる」と強調。経験を共有することで、将来の災害に備える重要性を訴えています。
他組織でも広がる震災経験の継承活動
東日本大震災の経験を継承する取り組みは、他の鉄道事業者や支援団体でも続いています。震災で一時全線が不通となった岩手県沿岸部を走る三陸鉄道では、毎年の新入社員研修で幹部が震災について説明。震災の2年後に入社した総務課の皆川哲也さん(33)は、駅舎が被災したため列車内に災害対策本部が設けられたことを知り驚き、「自分も震災について語り継がなければ」と決意を新たにしています。
日本赤十字社(東京)は今月3日、被災地で活動した医師らが若手職員に当時の思いや教訓を語るイベントを初開催。登壇した植田信策医師(62)は震災当日、勤務していた宮城県石巻市の病院で、妻子の安否がわからないまま患者対応に当たりました。妻子はまもなく無事が確認されましたが、多くの同僚が家族を亡くし、植田医師は「困難の中でも、みな目の前の患者に向き合うしかなかった」と当時の苦悩を振り返りました。
国土交通省東北地方整備局は、震災直後に内陸部から沿岸部に向けて緊急輸送道路を切り開いた「くしの歯作戦」などの取り組みを若手職員に研修で伝えています。被災地で撮影した写真や動画約1万点をデータベース化し、全国の自治体や団体に無償提供。担当者は「当時の記憶を広く伝え、防災力向上に役立てたい」と話しています。
これらの活動は、震災から15年が経過し、経験の風化が懸念される中、教訓を未来に生かすための重要な一歩となっています。JR東日本をはじめとする各組織の取り組みが、災害に強い社会づくりに貢献することが期待されます。



