大型船増産計画の陰で、海事技術専門官の深刻な不足が進行
政府は大型船の増産を打ち出しているが、その安全性を検査する海事技術専門官の確保に国土交通省が苦戦している。近年、定期採用では十分な人材が集まらず、中途採用で補う状況が続いており、検査体制の維持が大きな課題となっている。この問題の重要性は、知床沖で発生した旅客船の沈没事故によって改めて浮き彫りにされた。
船内をくまなく調査、命に関わる厳しい検査業務
長崎県・壱岐島の造船所では、貨物船の船底で打音検査が行われている。国交省九州運輸局の海事技術専門官である中村爽太郎さん(24)が、飼料用穀物を運ぶ貨物船(全長75.8メートル、総トン数499トン)の船底に潜り込み、専用のハンマーで打音を響かせながら、浸水や亀裂の有無を確認している。これは国の定期検査の一環であり、目視と合わせて徹底的な調査が求められる。
中村さんは2024年4月に入省した。大学時代は航海士を目指していたが、教員から海技専門官の仕事を聞き、「やりがいがありそう」と進路を変更したという。配属後は貨物船や新造船の検査を担当し、燃料タンクからエンジン、警笛、無線まで、不具合や規格違反がないかを船内くまなく調べている。検査は船の大きさにかかわらず1~2人で行われるため、複数の船を抱えると1か月以上にわたり造船所に通うこともある。中村さんは「命に関わるので気が抜けません」と語り、その責任の重さを強調した。
海技専門官のなり手不足、定期採用では目標に届かず
海技専門官は、船体運動や造船工学に精通した国交省の技術職員であり、船舶安全法に基づき中・大型船の検査を担う航行安全の要だ。しかし、なり手不足が深刻化している。同省検査測度課によると、毎年3月上旬から4月中旬に定期採用試験の受験者を募集しているが、昨年行った今春入省予定の募集では、十数人の採用目標に対して応募は10人、専門知識を問う筆記や面接試験を経て合格した人は5人にとどまった。定員に満たないのは6年連続で、造船所勤務経験者などの中途採用を行い目標数を確保している状況だ。
統計では、海技専門官の数は過去20年で14%減少しており、この傾向が続けば、政府の大型船増産計画に伴う検査需要に対応できなくなる恐れがある。知床沖の沈没事故は、船舶の安全性検査の重要性を社会に再認識させたが、それを支える人材の確保が急務となっている。
今後、国交省は採用戦略の見直しや研修制度の強化など、海事技術専門官の確保と育成に力を入れる必要がある。検査体制が脆弱なままでは、航行安全が脅かされ、再び重大事故が発生するリスクが高まるからだ。政府と業界が一体となって対策を講じることが求められている。



